「退職手続きの最後に、“この誓約書にサインしてください”と言われた…でも、内容がよく分からない」
「断ったら退職金がもらえないって言われたけど、本当に大丈夫?」
退職時に会社から提出を求められる「誓約書」には、秘密保持義務や競業避止義務、損害賠償など、将来に影響を及ぼす内容が含まれていることも少なくありません。
安易に署名してしまうと、あとから思わぬトラブルに巻き込まれるおそれもあります。
本記事では、退職時の誓約書にどう対応すべきか、断ることはできるのか?など、よくある疑問について解説します。
退職時に求められる誓約書とは?
まず、退職の場面で提出を求められる「誓約書」とは、どのような内容の書類なのでしょうか。
会社によって形式や内容に違いはありますが、一般的には以下のような条項が盛り込まれていることが多く見られます。
よくある誓約内容の例
秘密保持義務
業務を通じて知り得た営業秘密、技術情報などを漏洩しないこと。
競業避止義務
退職後一定期間、同業他社への就職や競合する事業の開業を禁止するもの。
(元顧客への営業行為や、他の従業員の引き抜きを禁ずる場合もある)
違約金や退職金の返還に関する条項
上記義務に違反した場合などに、違約金を支払う、あるいは、退職金の返還を義務づける旨の条項。
いずれも退職する労働者の側にとっては、その後の転職活動や生活にまで影響する可能性のある重要な内容です。
内容によっては、重大な法的責任が発生することもありますので、提出を求められた際は、その場の雰囲気で応じてしまわず、冷静に内容を確認することが重要です。
誓約書にサインしないと退職できない?
中には、退職の際に「誓約書にサインしなければ退職は認めない」といった対応をとる会社もあります。
しかし、退職することと、誓約書にサインするかどうかは、本来全く別の問題です。
退職自体は一方的な意思表示でできるもので、会社の了解があって初めて退職できるわけではありません。したがって、「誓約書にサインしなければ退職できない」ということにはなりません。
なお、労働契約法第3条1項では、「労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」と定められています。
退職させないといって誓約書へのサインを迫るやり方は、こうした対等合意の原則にも反する行為です。
誓約書を断るには?伝え方と注意点
誓約書の内容に納得がいかない場合には、署名を拒否することができます。
そもそも、誓約書の提出は法律上の義務ではありません。会社側が提示してきたからといって、必ず応じなければならないというものではないのです。
とはいえ、ことを荒立てたくないという思いもあって、どう対応するべきなのか悩む場合も多いと思います。
ここでは、なるべく円満に、かつ自分の権利を守りながら断るための対応のポイントをご紹介します。
その場での即答は避け、「確認させてほしい」と伝える
退職の書類一式の中に紛れ込むように誓約書を提示されることもありますが、その場で内容もよくわからないままサインしてしまうのは避けましょう。
一番シンプルで安全な対応は、次のように伝えることです。
「内容が重要そうなので、持ち帰ってよく確認させてください。」
誠実な姿勢を見せつつ、冷静に検討する時間を確保できます。
納得できない場合は、きっぱりと署名を断ってよい
内容をよく確認した上で、「これは将来的に不利になりそうだ」と感じるのであれば、サインはせずに断ることができます。
「申し訳ありませんが、誓約書の内容に納得できない点があるため、署名は控えさせていただきます。」
このように、無理に詳しい理由を述べずとも、意思を伝えるだけで十分です。
誓約書はあくまでも任意の合意に基づく書類であり、サインを拒否したことを理由に、退職を妨げたり、正当な退職金の支給を拒むようなことは認められません。
部分的な合意もあり得る
サインをしても問題のないと思える箇所とそうでない箇所が混ざっている場合は、内容を修正して部分的に合意するというのも選択肢です。
例えば、秘密保持の部分は合意できるけれど、競業避止の部分については合意ができないといった場合や、退職後2年間の制限になっているのを半年にしてほしいといった場合です。
この場合、合意できない部分を削除・修正した修正版を作成してもらいましょう。
会社に修正版を作成してもらえない場合には、「第×条については、合意できません」と明記した上で署名するというやり方もあり得ます。
修正する場合も、例えば「制約範囲を狭めたつもりがそうなっていなかった」とならないように、どのような文言にするのか慎重な検討が必要です。
まとめ:流されずに、一呼吸おくことが大切
退職の場面では、「トラブルを起こしたくない」「早く終わらせたい」という気持ちから、つい流されてしまいがちです。
しかし、誓約書の内容は、退職後の生活やキャリアに大きく関わる場合もあります。
一度サインしてしまうと、その後の撤回は簡単ではありません。
だからこそ、その場の雰囲気で判断せず、少なくとも、内容を持ち帰ってよく確認することを忘れないでください。
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