退職後の突然の通知
退職後、しばらくたったある日。突然、元の会社からこんな連絡が届いた——
「あなたの行為は、競業避止義務に違反しています」
「誓約書違反なので、損害賠償を請求します」
こうした通知を受けて、戸惑い、不安に感じている方は少なくありません。実際、私のもとにもこのようなご相談が数多く寄せられています
本記事では、そうした状況で「取るべき行動と避けるべき対応」について、わかりやすく解説します。
「競業避止義務に違反している」と言われる典型パターンとは?
元の会社から「競業避止義務に違反している」などと言われてしまうパターンとしては、次のような場合があります。
・同業他社に転職した場合、
・自営業・フリーランスで事業を始めた場合
・元の会社の顧客と取引をした場合
・元の会社の同僚を引き抜いた場合
業界が狭いために取り引き先等を通じて情報が伝わる場合もありますし、ホームページやSNS等を通じた情報発信を通じてあなたの行動を知った元の会社が、こうした通知を送ってくることもあります。
競業行為を辞めるように求める通知もあれば、具体的な金額を示した損害賠償請求が行われる場合もあります。損害賠償額として驚くような高額な金額が示されることも少なくありません。
突然このような通知を受け取れば、誰でも動揺してしまうのが当然です。
しかし、
・本当に「違反」と言えるのか
・損害賠償請求が成り立つのか
については、落ち着いて考える必要があります。
慌てて自己判断で対応することで、トラブルがさらに拡大することもあります。
まずは、冷静に情報を整理し、適切な対応をとることが何よりも大切です。
違反を主張されたときの“やってはいけない対応”
「競業避止義務に違反している」との通知を受けた際、多くの方が不安や混乱から、つい“間違った対応”をしてしまいがちです。
ここでは、実際のご相談の中でもよく見られる「やってはいけない典型的な対応」をご紹介します。
内容を軽視した上での放置
確かに、通知の内容をよく検討したうえで、あえて対応しないという判断も場合によっては選択肢の一つです。
ただし、内容をよく確認せずに「大したことはないだろう」と軽く考えて放置してしまうのは危険です。
会社側の主張に一定の法的根拠があるケースでは、放置することで事態が悪化し、いきなり法的手続き(訴訟・仮処分など)に進まれてしまうおそれもあります。
そうなれば、転職先での信用や、新たに始めた事業に深刻なダメージが及ぶことも考えられます。
通知の内容をきちんと検討し、法的なリスクを見極めた上で行動を決めることが大切です。何も考えずに放置してしまうのは、避けるべき対応です。
よく確認せずに謝罪・誓約等してしまう
「自分に落ち度があったかもしれない」と不安になり、慌てて元の会社に連絡をとってしまう方ももいらっしゃいます。その結果、会社の言うとおりに謝罪したり、新たに誓約書を差し入れてしまうケースも見受けられます。
しかし、このような対応は、本来は必要のない責任まで負う結果になりかねません。
また、やりとりの中で不用意な発言をしてしまい、相手に新たな攻撃材料を与えてしまうこともあります。
会社の主張にどの程度の根拠があるのかを冷静に検討せずに応じるのは、リスクが大きい行動です。
競業避止義務違反かどうかを判断する重要なポイント
競業避止義務に「違反している」と会社から主張された場合でも、それが本当に法的に認められるものかどうかは、以下の観点から慎重に判断する必要があります。
相手方の主張の根拠を確認する
本来、退職後は雇用契約が終了しているため、競業避止義務を負わないのが原則です。
したがって、相手があなたの退職後の行動を縛る根拠として何を挙げているのか、まず確認しましょう。
誓約書違反を根拠にしているのか
就業規則違反を持ち出しているのか
あるいは、民法上の不法行為や不正競争防止法違反を主張しているのか
これらによって、反論の方向性や必要な準備が大きく変わってきます。
誓約書や就業規則の文言の確認
競業避止義務を定める文書といっても、その内容は会社によって千差万別です。
近年は、「とりあえず誓約書を取っておこう」との意図で、ネット上のテンプレートを修正したような、あまり内容の練られていない誓約書が使われているケースも少なくありません。
違反の根拠として誓約書や就業規則が示されている場合には、その文言をよく確認することが非常に重要です。
形式的な部分で、違反行為に該当しないことに気がつくケースもあります。
内容の合理性を検討する
仮に誓約書に署名していたり、就業規則の定めがあっても、その内容が職業選択の自由を不当に制約するものである場合には、公序良俗に反し無効となります
検討すべき主なポイントは以下のとおりです:
競業避止義務の目的:
ノウハウ等の秘密保護や、顧客との関係維持などが考えられます。
競業避止義務を定める必要性があるのか、あるとしてもどの程度あるのかという問題になります。
在職中の地位や役割:
上記の目的との関係で、在職中の地位・役割が、競業避止義務を必要とするようなものであったのかもポイントになります。
制約の範囲:
競業行為全般が禁じられているのか、顧客奪取や引き抜きの禁止なのか。
期間や地域について限定はあるのか、限定の程度はどうかといった問題です。
代償措置の有無:
競業避止による制約を受けることに対して金銭的な補償がされているのかどうか。競業避止義務の対価として明示された金銭的な支払いがなされることは、ほとんどありませんが、退職の経緯によっては退職金の上乗せ等がされる場合もあります。また、在職時に相当に高額な給与であった場合には、実質的に代償措置が含まれていると評価される場合もあります。
誓約書の作成過程:
これらの他にも、相手方の主張の根拠が誓約書である場合には、その誓約書が作成された過程も一つのポイントになります。任意性がないとして効力が否定されるケースもあります。
形式的に「誓約書がある=違反」ではない
競業避止義務違反かどうかを判断するには、
・会社側の主張根拠
・誓約書や就業規則の文言
・内容の合理性(職業選択の自由の不当な侵害になっていないか)
といった複数の要素を総合的に見極める必要があります。
形式的に「誓約書がある=違反」ではありません。内容を慎重に確認し、必要に応じて法的な判断を仰ぐことが大切です。
【まずはここから】お奨めの対応4ステップ
1.証拠・資料を整理する
まずは、関連する資料を整理し、保全することが重要です。
- ・誓約書の写し(退職時だけでなく入社時に作成している場合もあります)
- ・就業規則
- ・退職時のやりとり(メール等)
- ・元の会社での組織図や業務内容が分かる資料
- ・退職後の事業立ち上げや就職に関する資料
- ・元の会社の取引先とのやりとりがあればその経緯が分かる資料
こうした資料は、時間がたてばたつほど散逸していくものです。本格的な争いになるようなケースでは、ある程度の時間が経過してからこうした資料が実際に必要になってきます。
いざ必要というときに役立つように、早めに保全措置をとっておくことをお奨めします。
2.事実経緯を整理する
顧客の奪取や同僚の引き抜きなどが問題にされるようなケースでは、細かな事実経緯も重要となってきます。この点も、時間がたてばたつほど記憶は曖昧になっていきます。1で整理した資料も見ながら、早めに時系列で事実を整理しておくことが後々役立ちます。
3.返信は留保
通知には大抵の場合、対応の期限が記載されています。期限が区切られると焦ってしまうと思いますが、上でも見たように、慌てて対応することは禁物です。
対応方針が決まるのに時間がかかるようであれば、例えば「専門家と相談してから対応する」などとして留保しておけば良いです。なお、正式な返答前に相手と接触する場合には不用意に情報を与えないように注意が必要です。
4.弁護士への相談
誓約書や就業規則の効力、実際上のリスクなどについては、なかなか簡単には判断がつかない問題です。1,2で整理した資料や情報を元に、早めに弁護士に相談することをお奨めします。
相談に際しては、法的にどうかという理屈の面での整理とともに、実際上のリスクや見通しも踏まえた上で、対応方法についてよく協議することが重要です。
まとめ:大切なのは“感情的にならず、冷静に対応すること”
近年は競業避止に関する誓約書をとる会社が増えているため、こうした競業避止を巡るトラブルも増えています。
競業避止義務に関する問題は複雑で、個人で判断するには難しいケースが多いのが現実です。突然の通知に驚いたり、不安を感じたりするのは当然のことですが、一つ一つ落ち着いて冷静に対応することが大切です。
競業避止義務トラブルでお困りの方は、是非お気軽にご相談ください。
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