労災・通勤災害と解雇

労災保険制度と解雇制限

仕事の上で被った負傷や疾病、死亡については、その災害が起こった点について使用者に過失があったかどうかにかかわらず、使用者は労働者に一定の補償をしなければならないという「労災補償責任」が定められています。

この使用者の補償責任を保険でカバーするというのが労災保険制度です。

さて、労災によって休職している方については、法律で特別に解雇が制約されています。

具体的には、労働基準法19条1項本文で

「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間・・・は、解雇してはならない」

と定めているため、労災で休業している期間とその後30日間は、原則として解雇は許されないのです。

普通解雇だけではなく、懲戒解雇も許されません。


一部休業でも解雇制限が働くか?

さて、労災が起こってから全部休業している場合は分かりやすいのですが、一部休業している場合はどうなるでしょうか。

例えばひと月のうち合計3日は休業して、残りは出勤しているという場合も、この解雇制限が当てはまるのかという問題です。

この点が争われた裁判例として昭和47年8月21日神戸地裁決定を取り上げます。

この事案は、自動車教習所の指導員として働いていた労働者が、路上教習中に追突事故にあってむちうち症になり、一部休業をしていたところ、事故の約7カ月後に懲戒解雇されたというケースです。

解雇された当月は合計3日間、前月は合計9日間の一部休業をしていました。

裁判所は、

「労働者が業務上の傷病を理由にそれが回復しない間に解雇されると新たな職場を見つけることが極めて困難であって労働者の生活を脅やかす」から、「必ずしも傷病後解雇にいたるまで全部休業することは必要ではなく、一部休業でも足りるというべき」

として、このケースでも休業後三〇日間内になされた解雇であるから無効と判断しました。

労働基準法19条1項の解雇制限は、一部休業の場合にも適用されるのです。

通勤災害と解雇

本来、労災保険制度というのは、仕事の上で被った負傷や疾病、死亡に対する使用者の労災補償責任を前提に作られた制度です。

しかし、仕事の上で被った負傷や疾病、死亡にとどまらず、通勤途中で被った負傷、疾病、死亡(通勤災害)についても保険給付が行われることになっています。

労働災害の場合には、上記で紹介したとおり、療養のために休業する期間とその後30日間は原則として解雇してはならないという制約(労働基準法19条)がありますが、通勤災害の場合は、この解雇制限はありません。

したがって、通勤災害による負傷、疾病によって働けないという場合に、これを理由として解雇することができるかどうかは、通常の私傷病の場合と同様に判断されます。

私傷病の場合の復職可能性について

多くの会社では、病気や負傷による欠勤が長期に及ぶ場合には、一定期間を休職とし、休職期間満了時に復職できない状態にある場合には自然退職や解雇となる休職制度を設けています。

そのため、私傷病を原因とする解雇が争われる場合の多くは、この復職時に、復帰可能かどうかをめぐって争われることになります。

復職の可能性を判断するにあたっては、休職者の能力や経験、地位、企業の規模、業種、労働者の配置異動の実情等に照らして、他の業種への配転の現実的可能性がある場合には、その配転が可能かどうかを検討しなければならないとされています(片山組最高裁判決 平成10.4.9)。

したがって、他の業種への配転の現実的可能性があるにもかかわらず、その配転について検討しないまま、復職不可と判断して休職期間満了とともに解雇することは許されません。(詳しくはこちら→休職と解雇~復職可能性の判断方法・医師の診断書の要否~

打切補償

なお、労働災害の場合も、「使用者が打切補償を支払った場合」と「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」には例外的に解雇の制約はなくなります。

「打切補償」というのは、療養をしている労働者が療養を開始してから3年が経過しても病気や怪我が治らないという場合に使用者が平均賃金の1200日分を支払うことです。

療養開始後3年を経過した時点で傷病補償年金(療養を開始してから1年6カ月が経過しても傷病が治らず、その障害の程度が一定の傷病等級に達している場合に支払われます)を受給していたり、あるいは、それ以降に受給するようになったという場合は、この打切補償を行ったとみなされることになっていますので(労災法19条)、この場合も同様に解雇制限が外れることになります。

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併せて知っておきたい

精神的疾患に基づく解雇の有効性が争われた裁判例

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