配転命令を拒否できる場合、できない場合

配置転換

会社から、仕事内容や勤務場所を変更する配置転換(配転)を言い渡されたことをきっかけに、不本意ながら退職を考えるようになる場合があります。

これまで積んできたキャリアとは全く異なる仕事を行うように命じられた場合や、配転によって遠方に住まなければならず、これまで行ってきた家族の介護に支障が生じるような場合、あるいは、配転命令が実質的には嫌がらせ目的で行われたと感じる場合もあるかもしれません。

「配転命令を拒否出来ないでしょうか。」というご相談をときどき受けます。

仕事内容や勤務地が限定されているか

配転命令については、就業規則で「会社は、業務上の必要性があるときには、配置転換を命じることができる」等の記載がされていることが多いと思いますが、その場合でも、仕事内容や勤務地が限定された雇用契約が結ばれていると認められる場合は、その範囲でしか会社は配転命令を出すことができません。

問題は、仕事内容や勤務地が限定された雇用契約かどうかの判断ですが、例えば、業務の内容が特殊な資格や技術を必要とするものである場合は、仕事内容が限定されていると認められやすいと言えます。

もっともアナウンサー募集に応じて採用された放送局のアナウンサーについて、最高裁は、職種を限定する内容の合意はあったとはいえないと判断していますし(九州朝日放送事件、平成10年9月10日)、仕事内容を限定する合意があったと認められるハードルはなかなか高いと感じます。

勤務地が限定されていたかどうかについては、採用経緯や、地位、仕事内容、慣行等を考慮して判断されます。

その意味でも、採用段階で勤務地についてやり取りがあった場合はその内容をきちんと記録に残しておくことが大切です。

配転命令権の濫用

また、会社に配転命令権が認められる場合でも、配転命令が権利の濫用に当たるという場合は無効です。

権利の濫用にあたるかどうかは

① 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性があるか

② 人員選択が合理的か

③ 配転命令が不当な動機目的でなされたか

④ 配転が働く人に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものか

⑤ その他配転手続きや経緯などの特段の事情

を考慮して判断されます。

育児介護休業法

④の「働く人が被る不利益」に関して重要なのは、育児介護休業法の規定です。

育児介護休業法26条は、転勤によって子の養育や家族介護が困難になる労働者がいるときは、会社はそうした状況に配慮しなければならないことを定めています。

したがって、転勤で子どもの養育や家族介護が難しくなると言った事情がある場合は、本格的な争いに発展する前に、こうした条項をもとにして会社に対して配慮を求めていくことが有効です。


不当な配転命令

配転命令が、従業員を退職させるという不当な動機・目的でなされたもので権利濫用に該当するとして無効と判断された近年の裁判例として、平成23年11月25日前橋地方裁判所高崎支部判決をみてみます。

このケースは、大学や専門学校等を運営する学校法人でバスの運転手として勤務していた原告が、自宅から50キロ以上、元の職場から60キロ以上離れた温泉宿泊施設での勤務を命じられたという事案です。

配転命令が出された背景として、この学校法人では送迎バスを別会社に委託することが計画されており、原告を含めたバスの運転手に対して別会社への転籍が繰り返し求められたものの原告はこれを拒否したという事情がありました。

権利の濫用

裁判所は、まず、配転命令について

① 業務上の必要性が存しない場合

または、

② 業務上の必要性が存する場合であっても、
a 不当な動機・目的をもってなされたものであるとき
b 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき

等特段の事情の存する場合には、権利の濫用に当たり許されない、と述べました。

その上で、このケースでは、①の業務上の必要性は認められるものの、②原告に不利益を負わせて退職させるという不当な動機・目的を持って行われたものといえるから、無効であるとしました。

不当な動機目的

裁判所が、「配転命令が不当な動機目的をもって行われた」と判断できる理由として指摘したのは以下のような事情です。

① 配転先の業務は、原告でなければならない業務ではなく、また、従前は住み込みの従業員1名以外には繁忙期にパートタイム職員を勤務させるという勤務形態で十分であるなど、(他の従業員ではなく)原告を配転させて人員の不足の補う業務上の必要性はなかったこと

② 新たな勤務先は、原告の自宅や従前の勤務場所から遠く,通勤に長時間を要し,宿泊勤務となることもある上,業務内容や労働条件が従前とは大きく異なるものであって、配転命令は,原告に相当程度の不利益を負わせるものであること

③ 配転命令に先だって、対象となる従業員を選定するために配転の希望の有無,家庭の状況等の諸事情を聴取したり,別の配転先を検討した形跡がなく、また、本件配転命令が,原告が別会社への転籍を拒否した約3時間後に、選定の理由や配転先の労働条件等について一切説明がなされることなく一方的に発令されたこと。

④ したがって、配転命令が一定の基準に基づいて,従業員らの家庭の事情や各部署の人員配置等を含めた多様な要素を考慮した上で行われたとは言えないこと。

⑤ 原告には、適正な額の時間外勤務手当や宿泊勤務手当等が一切支払われておらず,原告は,うつ状態との診断を受けるに至っていること

従業員を退職に追い込むための嫌がらせの手段として配転命令を用いるなどということはもちろんあってはならないことですが、そのような場合でも、訴訟になると会社からは一見もっともらしい必要性や事情が主張されるだけに、不当な動機・目的に基づいている事を立証するというのはそう簡単なことではありません。

そのような中で、配転命令の不当な動機・目的がどのような事情のもとで認定されたかを見るうえで参考になる裁判例の一つと言えます。

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