会社が労働者を採用する際、その適正を見るために採用後、一定の期間を試用期間とすることがあります。
この試用期間については、会社は試用期間終了時に本採用拒否(解雇)を自由に行えるわけではなく、これが許されるためには、試用期間を設けた趣旨、目的に照らして客観的合理的理由と社会的相当性があることが必要となります。(詳しくは試用期間終了時の解雇は許されるか)
ところが、会社によっては、適性をみるための期間として「試用期間」ではなく、短い期間を定めた契約をする場合(例えば、3カ月契約や1年契約など)があります。
この場合、当初に定めた期間が経過すると、当然に契約は終了するということになるのでしょうか。雇用期間と試用期間の関係について、実際に裁判で争われた例をもとに見ていきたいと思います。
雇用期間とは
そもそも雇用期間とは、雇用契約が存続する期間のことをいい、雇用期間があらかじめ定められた契約のことを有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)といいます。(詳しくは、雇用期間の定めありとは?)
雇用期間の上限は原則として3年とされ、例外的に①高度の専門的知識等を必要とする業務に就く労働者の場合(たとえば公認会計士や医師など)②満60歳以上の労働者の場合については、期間の上限は5年とされています(労基法14条)。
これに対して、雇用期間の下限については一般的には制限はありません。
そして、有期雇用契約においては、期間が満了すると基本的に契約は終了することになります(ただし、一定の条件を満たす場合には、更新拒絶は制約されます。詳しくは、雇止めの正当な理由とは?認められるケース/認められないケースを裁判例で解説)
しかし、「試用期間」とすれば本採用の拒否が厳しく制約されるのに対して、雇用期間の定めを置けば、それが問題とならなくなるのは不合理です。この点が問題となったのが、次の最高裁平成2年6月5日判決です。
最高裁平成2年6月5日判決
事案の内容と原審の判断
この事案では、高校の社会科教員として採用された原告と学校法人との間に交わされた雇用契約の内容が争われました。
原告は、採用の際に学校の理事長から、契約期間は一応1年とすること、1年間の勤務状態を見て再雇用するかどうかの判定をする旨の説明を受けていました。
また、働き始めてから約1カ月半後には1年の期限付職員契約書に署名捺印をしていたのです。
そのため、1年が経過した時点で雇用契約が当然に終了するのかという点が問題となり、原審の高等裁判所は「契約は1年の期間満了によって当然に終了した」と判断しました。
最高裁の判断・・・試用期間の定めとみるべき
これに対して、最高裁は
採用にあたって、雇用契約に期間を設けた場合において、その趣旨、目的が労働者の適性を評価・判断するためのものである場合は、期間満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情がない限り、試用期間を定めたものを考えるべきである。
と述べました。
つまり、いくら形式的には雇用期間が定められていたとしても、その趣旨が労働者の適性をみるためのものである場合は、あくまでも試用期間が定められているものとして扱われるべきだというのです。
したがって、定められた期間が経過する際に、契約を終了させようとするのであれば、やはり、その期間を設けた趣旨目的に照らして、客観的合理的理由・社会的相当性が必要になってくるのです。
雇用契約が当然に終了するとの明確な合意はあったか?
そして、最高裁は、本件について
① 理事長が1年の契約期間について「一応」と表現していること
② 原告は期限付雇用契約書に署名捺印しているとはいえ、それは職務開始から約1カ月半後のことであり、また、この契約書は、雇用契約の趣旨・目的・内容を必ずしも適切に表現していない可能性があること
などから、原告と学校と間に、1年の期間満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められるとするにはなお疑問が残るとして、原審を破棄して差し戻しました。
実質は試用期間の趣旨であるにもかかわらず、形式的に雇用期間を短く切り「期間が満了した」という理由で簡単に社員を切り捨てることは許されないということができます。
その他の参考事例
同様の点が争われた事例としては、他にも平成15年4月25日大阪地裁判決があります。
この事案は、社会福祉法人とその従業員との間で争われたケースで、社会福祉法人側は「1年間の雇用期間の満了により雇用契約は当然に終了した」と主張しました。
しかし、裁判所は1年間の雇用期間の定めがあったことは認めながらも、上で紹介した最高裁判断を前提に、このケースでは、
面接にあたり、施設長から原告に対して「働きぶりを見たいけども、普通は3か月やけど3か月では短くて分からないから、1年間様子を見させてほしい」と説明していた事実があったこと
から、契約期間を1年とした趣旨・目的は「原告の適性を評価・判断するためのもの」であったと認定しました。
そして、期間満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情も認められないから、本件期間は「試用期間である」とし、「期間が満了した」という以外には何らの終了原因も主張されていない本件では、雇用契約はなお継続していると結論づけたのです。
試用期間と評価されると、その場合に、解雇が許されるのはどんな時かという点が問題になりますが、この点については、本採用拒否・試用期間中の解雇は有効?裁判例でわかる判断ポイントで解説しています。
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