法律相談にお越し頂く方には、雇用契約書や就業規則があればお持ち頂くようにいつもお願いしています。
どんな労働トラブルでも、会社との間の雇用契約の内容がどうなっているのか、就業規則ではどう定められているのかが検討の出発点になるからです。
ただ、「雇用契約書?うーん、もらったか記憶にない・・・」「もらえなかった」という方が結構います。
そんなときには、「労働条件通知書」はないか、さらにお尋ねするのですが、残念ながらこれも「もらっていない」という方が結構います。
労働条件通知書とは、使用者が、雇用契約締結の際に、労働条件を明示するために作成し交付する書類で(労働基準法15条1項、労働基準規則5条1項)、雇用期間や給料、労働時間など重要な労働条件が記載されているものです。
「雇用条件がはっきりしない」ことから生ずる様々なトラブルを防ぐためには、働き始めるときに、こうした書類をきちんともらっておくこと、そして、きちんと保管しておくことが大切です。
もっとも、会社によっては雇用契約書や雇用条件通知書を率先して作ってもらえないという場合があります。
そこで、こうした雇用契約書や労働条件通知書をもらえない場合にどうすべきかについて見ていきます。
納得がいかない、でもどうすればいいか分からない・・・そんな時は、専門家に相談することで解決の光が見えてきます。労働トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
詳しく見る
雇用契約書や労働条件通知書と法律の定め
まずは、雇用契約書や労働条件通知書の法律上の位置づけについて整理しておきます。
雇用契約書とは、雇用契約の内容を書面にしたものです。
雇用契約は口頭(口約束)でも成立しますが、口頭での確認だけでは契約内容が不明確となりトラブルの元となってしまいます。
そこで、労働契約法4条は、次のように定めて、契約内容を「できる限り」書面により明確にすることを求めています。
1 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする。
つまり、雇用契約書の作成は必須のものとはされていませんが、契約内容を明確にする観点から、出来る限り作成すべきとされているのです。
一方で、労働基準法には、使用者の労働条件明示義務を定めた規定があります。
労働基準法15条1項
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
つまり、まず、使用者は、「賃金、労働時間その他の労働条件」について、労働者に対して明示することが法律上の義務とされています。
ここで「賃金、労働時間その他の労働条件」とは、具体的には以下の事項です(労働基準法施行規則5条1項)。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び精勤手当等並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
そして、このうち、特に「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項」については、「厚生労働省令で定める方法」により明示しなければならないのです。
ここで「厚生労働省令で定める方法」というのが具体的には「書面の交付」で(労働基準法施行規則5条3項)、明示のために作成し交付される書面のことを「労働条件通知書」と言います。
つまり、上で説明したように雇用契約書の作成は義務づけられていませんが、労働条件通知書の交付は、法律上、使用者の義務とされているのです。
書面によって明示することが求められている「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項」とは、具体的には以下のとおりです(労働基準法施行規則5条3項)。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
多くは就業規則に記載されている事項ですので、この点は就業規則を交付することで足りますが、就業規則に記載されていない事項(例えば、労働契約の期間に関する事項や、就業場所及び従事すべき業務に関する事項)については、使用者は、別途これらが記載された書面(労働条件通知書)を交付する必要があります。
交付してもらえない場合
では、これを踏まえて、雇用契約書や労働条件通知書を交付してもらえない場合にどうするかを考えてみます。
まずは柔らかく会社に尋ねてみましょう。「前に働いていた会社でこんな書類をもらったことがあるんですが・・・」「何かで聞いたことがあるんですが・・・」などといって聞いてみるのです。
こうした書類を整えた方がいい(整えなければならない)ことを分かってはいるものの、ついつい面倒で省略してしまっているという会社であれば、しぶしぶかもしれませんが用意してくれるでしょう。
大事なのは、こうした書類を整えることは、何も従業員のためだけではなく、会社にとっても重要だということです。労働条件を曖昧にせずに明確にしておくことは、お互いが気持ちよく働いていく上でとても大切です。また、このように労務環境を整えるということは、会社にとって信用を高め、良い人材を集め上でも役立ちます。
法律上の権利や義務という観点だけで話をしてしまうとどうしてもギスギスしてしまいますが、こうしたお互いのメリットの観点から伝えれば、会社の対応も変わるかもしれません。
それでももらえない場合どうするか
それでももらえなければ、自衛の策をとるほかありません。
労働条件のうち気になる点について、一つ一つ聞いて確認をし、そのやりとりを細かくメモしておくことです。
また、特に気になる点については、「その点だけでも紙に書いてもらえませんか」とお願いをすることです。
さらに、応募の際に利用した求人広告や求人票についてもきちんと保管するようにしてください。労働条件をめぐって後々トラブルになった時に、役立つことがあります。(こんな争いもあります⇒求人票と違う!給料や退職金は払ってもらえるか)
なお、もし、実際に働き始めた後、労働契約締結の際に明示された労働条件と実際の条件とが異なっていたという場合は、働く人は、すぐに労働契約を解約することができます(労働基準法15条2項)ので、この点も頭に入れておくとトラブルになったときに役立つことがあります。
また、労働条件の明示義務違反について損害賠償請求が認められた例もありますので、参考にしてください。
労働トラブルでお困りの方はお気軽にご相談ください。
▼名古屋の弁護士による労働相談のご案内