雇用契約を会社が一方的に終了させる解雇は、労働者の生活に大きな影響を与えます。
そのため、解雇が許される場合は法律上厳しく制約されており、客観的合理的理由と社会的相当性のない解雇は無効となります。(詳しくは⇒許される解雇理由とは?無効となるケースと判断基準を徹底解説)
とりわけ経営不振による人員削減・部門の廃止など、経営上の必要性を理由に行われる整理解雇は、労働者側の事情とは無関係に行われることから、より厳格な制約を受けます。
具体的には、以下の4つの観点から判断されます。
- 人員整理の必要性が存在すること
- 解雇を回避するための努力が尽くされていること
- 被解雇者の選定が客観的合理的な基準によってなされたこと
- 労働組合または労働者に対して事前に説明し、納得を得るよう誠実に協議を行ったこと
ここでは具体的事例を通じて、これらの要件がどのように判断されるのかを見ていきたいと思います。
人材派遣会社が待機社員にした整理解雇
とりあげるのは、人材派遣会社が待機社員(雇用契約が継続しているものの派遣先が決まらずに待機となっている社員)に対して行った整理解雇について判断した事案(平成23年1月25日横浜地方裁判所判決)です。
裁判所は、まず
整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については、厳格に判断するのが相当である
と整理解雇について判断する場合の基本的な視点を明らかにしています。
その上で、整理解雇の有効性の判断に当たっては
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力
- 人選の合理性
- 手続の相当性
という四要素を考慮すべきとし、当該事案では①②③が認められず、客観的合理的理由及び社会的相当性が認められないため解雇は無効と判断しました。
人員削減の必要性
このうち①人員削減の必要性が認められないとした理由としては
- 整理解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であること
- 整理解雇にあたって人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでないこと
- 関連会社に対して、約20億の債権放棄をする一方で、さらに指導料名目で毎月約500万円を支払い続けてきたこと
という点が指摘されています。
このように人員削減の必要性は具体的な業績数値に根拠づけられたものでなければいけません。
解雇努力義務を尽くしたか
また②解雇努力義務を尽くしたとは言えないとした理由としては
- 会社が本件整理解雇当時に人員削減の目標を定めていたかも明らかではないこと
- 技術社員に対する希望退職者の募集が一切行われていないこと
が指摘されています。
整理解雇が労働者に過酷な影響を与えるものである以上、整理解雇に着手する以前に、希望退職の募集など「やるべきことをやった」状態であることが求められます。
人選の合理性
さらに③人選の合理性が認められないとした理由としては
- 待機状態にあり新規配属されず自己都合退職もしないというだけで、これまでの就業状況等を一切考慮せず待機社員を整理解雇の対象としていること
- 原告についても13年間にわたり継続的に派遣先で勤務してきたという就業状況等を考慮することなく整理解雇の対象とされていること
が指摘されています。
仮に整理解雇がやむを得ないとしても、誰をその対象とするのかという点も極めて重要です。客観的にその合理性が説明できる人選である必要があります。
整理解雇の効力が争われた例として、他にもこのような例を紹介しています。
⇒パート従業員に対する整理解雇が無効とされた裁判例|解雇が認められない理由
他にも整理解雇の有効性が争われた具体的な事例を知りたいという方のために、近年の解雇裁判例を、解雇の種類や理由、判決結果などから検索できるようにしています(⇒裁判例から学ぶ解雇基準)。ご自身の状況に近い事例を探して、今後の対応や判断の参考にして頂ければと思います。
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不当な解雇に対してどう対応すべきかは、具体的な事情によっても変わってきます。ご自身の状況に照らして、今何をすべきかを知りたい方は、一人で悩まず弁護士にご相談ください。
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⇒解雇通知を受けたら?すぐに取るべき行動と注意点を解説 - 整理解雇前に自分から辞めることを迫られる場合もあります。このような退職勧奨の問題については、こちらで解説しています。
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