能力不足、業務命令違反、欠勤等を理由とする普通解雇が無効と判断された事例

【判決日 】 平成31年3月28日
【裁判所 】 東京地裁
【解雇種類】 普通解雇
【判決結果】 解雇無効
【雇用形態】 正社員
【職種  】 事務・管理
【解雇理由】 成績不良・能力不足/勤務態度不良・協調性欠如/欠勤・遅刻・早退 /業務命令違反

事案の概要

原告は、平成5年4月、エネルギー・情報通信分野、エレクトロニクス分野及び自動車伝送分野において使用される電子機器の製造、販売等を行う会社(資本金530億円、グループ会社全体の従業員数約5万2000名)において、期間の定めのない労働契約を締結し、当初は企画専門職、その後は総合職として勤務していた。

平成25年、原告は、被告から早期退職優遇制度を利用して退職するように求められたが拒否したところ、人事・総務分室への配転命令を受け、出向先を被告グループ会社の外に探すよう指示されたが、これに従わなかった。

被告は、平成28年3月31日をもって、人事・総務部分室を閉鎖し、これに伴い原告に対し、人材開発室に勤務するよう命じる配転命令を行った(以下、「本件配転命令」)。さらに、平成28年6月、被告は、原告に対し、被告の完全子会社であり、障害者を雇用し構内の緑化及び清掃等の事業を営んでいる株式会社Eへの出向を命じた(以下、「本件出向命令」)。

平成29年9月、被告は、原告に対し、「合計21日の欠勤をしたことにつき、診断書の提出を求めたにもかかわらず提出しなかったこと」及び「原告から受けた問い合わせへの回答書を交付しようとしたところ受領しなかったこと」を理由として、「会社に正当な届出をせず、会社の業務上の指示・命令に従わなかった」として戒告の懲戒処分を行った(以下、「本件戒告処分」)。

さらに、平成29年12月、被告は、以下を理由として原告を普通解雇した(以下、「本件解雇」)。

・指示された業務について、仕事をえり好みする態度を示したこと

・原告が業務上作成した文書等の内容が、求められている水準をはるかに下回るものであって、その改善を期待することができないこと

・指示に反して、人事評価に係る自己評価や目標設定をしなかったこと

・医学的な必要性がないも関わらず頻回に病院に通院し、通院した日に出勤することができたにもかかわらず、終日欠勤したこと

・欠勤に係る診断書を早急に提出せず、診療情報の提供についても同意を拒んだこと

・必要性がなかったにも関わらず休職の意向を示した他、これに伴って欠勤を繰り返したり短時間勤務をしたりして、雇用関係における信頼関係を失墜させたこと

(本訴訟において、原告は、被告が行った人事評価に基づく月例賃金及び賞与の減額の無効を主張して減額分の支払いを請求するとともに、本件配転命令及び本件出向命令、本件戒告、本件解雇の無効を主張し、その確認を求めているが、以下では、本件解雇の効力に関する部分についてのみとりあげる)

裁判所の判断

(1)勤務態度の問題について

  • 原告は、例えば資料作成の指示を受けた際に「この依頼はいったん保留にさせて頂きたいのですが」と述べるなど、指示された業務に従事することに難色を示すことがあり、このため社長が指示に従うように説得していたことや、その説得に1時間程度を要することがあったこと等の事実が認められる。
  • しかし、最終的には原告は指示に従って業務に従事していたことも考慮すると、このような原告の言動をもってことさらに悪質なものと評することはできない。

(2)業務上作成した文書等の問題について

  • 原告が作成した規程案等には、責任者等の事前承認に係る記載がなく、また、存在しない「社長秘書」の記載がある等、これに従った運用を開始するためには更なる検討や修正を要する点があった事実が認められる。
  • しかし、規程案の内容は多岐にわたり、必ずしも十分な検討期間を与えられて作成したものとは言いがたい面もあり、また、一定の方針が被告から先立って示されないと作成することができない性質のものもあった。
  • これらの点を措いて考えたとしても、原告が提出した規程案等に検討や修正を要する点があったことをもって、直ちに原告の業務遂行や結果等が悪質なものであるとはいえない。
  • 原告が作成した洗濯事業の立ち上げに関する報告には、洗濯業務と他の業務との兼業、集荷と配達の予定、専属作業員の要否、許認可の必要性等について検討がされていなかった事実が認められる。
  • しかし、被告から原告に対して、明示又は黙示にこれらの検討を行うことが求められていることを裏付ける証拠はないし、これらの検討がされていないことを踏まえても当該報告の内容が求められる水準をはるかに下回るものであったまではいうことはできない。

(3)人事評価に係る指示に違反したことについて

  • 原告は、社長等の指示に反して、人事評価に係る目標設定や自己評価をしなかった事実が認められる。
  • しかし、これによって業務に大きな支障等が生じたということはできない。
  • 配転命令発令後の人事評価については、その正当性についての疑問を払拭できないものであったから、原告が人事評価に疑問を抱き、これに応じなかったことについては、汲むべき事情があるといえる。
  • したがって、目標設定や自己評価をしなかったことをもって、有意に解雇事由を基礎づけるものと考えることは困難である。

(4)欠勤状況について

  • (原告が、医学的な必要性がないほど頻繁に病院に通院し、その後、出勤可能であったにもかかわらず、通院日に終日欠勤したという被告主張について)これに客観的に沿う内容の事実を認めることができるが、原告が主観的にも通院の必要性がないことを認識していたと認めるに足りる証拠はない。
  • 診療時間や病院から事業所への移動に要する時間を被告において把握することは容易であったところ、被告から原告に対して、通院日の出勤について指示された形跡はうかがわれない。
  • そうすると、通院や欠勤の状況をもって、被告と原告の信頼関係を失墜させるに至る程度のものであったということはできない。
  • (「原告が、その必要性がなかったにもかかわらず休職意向を示した」という被告主張について)産業医及び社長から休職をするように勧められた結果として休職を検討するようになったことを考慮すると、休職を検討する必要性がなかったとまではいえず、この点において原告を非難することは困難である。
  • (「原告が、その必要性がなかったにもかかわらず、合計21日の欠勤をした」という被告主張について)産業医及び社長から休職をするように勧められた結果として休職を検討していたことを踏まえると、当初の欠勤についてことさらに避難すべき事情とはいえないし、原告が休職をしない旨の意向を示した後の欠勤については、正当な理由があるとはいえないが、このような欠勤も6日程度にとどまり、その後に原告が欠勤せずに勤務し続けたことからすると、解雇を基礎づける程度に悪質なもの等とまでいうことは困難である。

(5)診断書の不提出について

  • (「原告が21日の病気欠勤をしたにもかかわらず、これに沿う内容の診断書を提出しなかった」という被告主張について)被告の主張は、診断書の内容が病気欠勤を正当化するものであることを要するとする趣旨とも解されるが、就業規則の文言上提出すべきとされている診断書の内容は限定されておらず、原告が提出した診断書ではその適格性を欠くとする根拠には乏しい。少なくとも、このこと自体が解雇を直接に基礎づけるほどの懲戒事由となり得るものということはできない。

(6)回答書の受け取り拒否について

  • 原告が自らした問い合わせに対する回答書の受け取りを拒絶したことは、業務上の指示、命令を受けても従わなかった場合に該当すると考えることもできる。
  • もっとも、これによって会社に重大な影響が生ずるといった事情は考えがたいから、これをもって直ちに解雇を基礎づけるようなものということはできない。
  • 原告が戒告処分を受けた後に同種の行為が繰り返されたとも認められないから、結局、これをもって解雇の客観的な合理的理由とみることはできない。

(7)解雇無効

  • 以上によれば、本件解雇について客観的合理的理由があり、社会通念上相当であると認めることはできないから、本件解雇は無効である。

関連記事

続けて検索

URLをコピーする
URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!