能力不足、業務命令違反、欠勤等を理由とする普通解雇が無効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・平成31年2月28日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・普通解雇
 ・成績不良・能力不足/勤務態度不良・協調性欠如/欠勤・遅刻・早退 /業務命令違反

解雇するに値する問題行動か

例えば、業務命令違反や欠勤など、労働者に問題行動があり、形式的には就業規則の解雇事由に当てはまるように見える場合でも、その行為の悪質さや結果として生じた影響の大きさを考慮すると、必ずしも解雇事由と認められないケースがあります。

解雇に値する問題行動かどうかは、こうした実質的な評価が必要となってきます。

ここでは、能力不足や、業務命令違反、欠勤などを理由とする普通解雇の効力が争われた事例について見ていきます。

問題とされた行為と裁判所の判断

原告は、もともと電子機器の製造、販売などを行う会社で勤務し、解雇時には構内の緑化及び清掃等の事業を行う子会社に出向中だった労働者です。

勤務態度や作成した文書の質の問題、欠勤などさまざまな問題行動があったとして普通解雇がなされ、その解雇の有効性が争われました。

(1)勤務態度の問題について

原告の勤務態度に関して、まず問題とされたのは、資料作成の指示を受けた際に「この依頼はいったん保留にさせて頂きたいのですが」と述べるなど、指示された業務に難色を示す言動があった点です。裁判所の認定によると、これにより社長が原告を説得するのに1時間程度を要することがあったとされています。

しかし、裁判所は、この点について、最終的には指示に従い業務に従事していたことを指摘して、このような言動をもって悪質とまでは評価できないとしています。

(2)業務上作成した文書等の問題について

会社は、原告が業務上で作成した文書についても問題があったと主張しました。

具体的には、原告が作成した規程案には、責任者などの事前承認に関する記載がなく、また、実在しない「社長秘書」の記載があるなど、この規定案に基づいて運用を開始するためにはさらなる検討や修正が必要となったという事情がありました。

しかし、裁判所は、以下の点を指摘し、原告が提出した規程案に修正が必要であったことをもって、直ちに原告の業務遂行や結果等が悪質であるとはいえないと評価しました。

・規程案の内容は多岐にわたっており、必ずしも十分な検討期間を与えられて作成したものとは言いがたいこと

一定の方針が会社から先に示されないと作成が困難な性質のものもあったこと

その他、会社は、原告が作成した洗濯事業の立ち上げに関する報告についても、洗濯業務と他業務との兼業、集荷と配達の予定、専属作業員の要否、許認可の必要性などが検討されていなかったという点を問題視していました。

しかし、裁判所は、「被告から原告に対して、明示又は黙示にこれらの検討を行うことが求められていることを裏付ける証拠はない。また、これらの点が検討されていなかったとしても、当該報告の内容が求められる水準をはるかに下回るものであったまでは言えない」としています。

(3)人事評価に係る指示に違反したことについて

会社は、解雇理由として「原告が社長などの指示に反して人事評価に係る目標設定や自己評価をしなかった」という点も主張しました。

しかし、裁判所は、以下の点を指摘し、これをもって解雇事由とすることはできないと判断しています。

・これにより業務に大きな支障等が生じたということはできないこと。

・配転命令発令後の人事評価はその正当性に疑問が残るものであったから、原告が人事評価に疑問を抱き、これに応じなかったことには、汲むべき事情があるといえること

(4)欠勤状況について

会社は、「原告が、医学的な必要性がないほど頻繁に病院に通院し、その後、出勤可能であったにもかかわらず、通院日に終日欠勤した」と主張しました。

しかし、これに対して、裁判所は、以下の点を指摘して、この主張を退けています。

・原告が主観的にも通院の必要性がないことを認識していたと認めるに足りる証拠はない

・被告から原告に対して、通院日の出勤について指示された形跡はうかがわれないから、通院や欠勤の状況が、被告と原告の信頼関係を失墜させる程度のものであったとは言えない

会社は、「原告が、その必要性がなかったにもかかわらず休職意向を示した」という主張もしましたが、裁判所は、これについても、「休職を検討する必要性がなかったとまではいえず、この点において原告を非難することは困難」としています。

また、「原告が、その必要性がなかったにもかかわらず、合計21日の欠勤をした」という会社の主張についても、「産業医及び社長から休職をするように勧められた結果として休職を検討していたことを踏まえると、当初の欠勤についてことさらに非難すべき事情とはいえない」としています。

さらに、原告が休職をしない旨の意向を示した後の欠勤については、正当な理由があるとはいえないとしながらも、以下の点を指摘して、解雇を基礎づける程度に悪質なものとはいえないと判断しました。

欠勤が6日程度であったこと

その後に原告が欠勤せずに勤務し続けたこと

(5)診断書の不提出について

会社は、解雇理由の一つとして「原告が21日の病気欠勤をしたにもかかわらず、これに沿う内容の診断書を提出しなかった」という点を主張しました。

しかし、裁判所は、就業規則の文言上提出すべきとされている診断書の内容が限定されていないことを指摘し、「原告が提出した診断書ではその適格性を欠くとする根拠には乏しい」と述べました。また、少なくとも、これ自体が解雇を直接に基礎づけるほどの懲戒事由となり得るものということはできないとも評価しています。

(6)回答書の受け取り拒否について

本件で、原告が、自らの問い合わせに対する会社の回答書の受け取りを拒絶したという事実がありました。

しかし、この点についても裁判所は、「業務上の指示、命令を受けても従わなかった場合に該当すると考えることもできる」としながらも、以下の点を指摘して、解雇の客観的合理的理由には当らないと判断しました。

・会社に重大な影響が生ずるといった事情は考えがたい

・原告が戒告処分を受けた後に同種の行為を繰り返していないこと

(7)本件解雇の効力

以上により、本件解雇は無効であると判断されました。

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