基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年3月7日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・普通解雇
・勤務態度不良・協調性欠如/成績不良・能力不足
勤務態度の不良や協調性の欠如
就業規則における解雇事由として、通常「勤務態度の不良」や「協調性の欠如」が挙げられており、これらは解雇理由の大きな類型の一つです。
ただし、「不良」や「欠如」といっても、明確で分かりやすい明確な基準があるわけではないため、どの程度の事情があれば、勤務態度の不良や協調性の欠如を理由とした解雇が許されるのかというのは大きな問題となります。
特に「協調性の欠如」という言葉は、解釈の幅が広く、時に曖昧な形で使われてしまうことがあることから、労働者側にも言い分がある場合が少なくありません。私が実際に取り扱ったケースでも、非常に曖昧な形で「協調性の欠如」という言葉が使われた例を目にしてきました。
では、具体的にどういった事情があれば、勤務態度の不良や協調性の欠如を理由とした解雇が許されるのでしょうか。ここでは、特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人で働く労働者に対して行われた解雇の効力が争われたケースについて見ていきます。
この事案で解雇された労働者は、もともと事務職員(兼運転手)として勤務していました。その後に配置転換によって介護職員となっていましたが、解雇されるに至りました。
解雇の客観的合理的理由について
指揮命令違反
解雇理由とされた事情は多岐にわたりますが、まず指揮命令違反です。
裁判所の認定によると、次のような事実がありました。
・事務職時代に、介護職への配置転換の打診を断った後、自らの業務内容を決定し、これを記載した書面をD施設長の机上に置くという方法で一方的に通告し、D施設長の了承を特たずに自己の決定した勤務形態で業務を遂行した。
・ごみの搬出業務は自己の分担すべき業務ではないとする書面をD施設長の机上に置き、一方的に通告してこれを拒否するなど、上司であるD施設長の意向を無視して独断で自己の業務を決定していた。
これに対して、裁判所は、このような行動は、上司の指揮命令に従って業務を行うべき労働者としての立場をわきまえないものであり、上司の職務上の指揮命令に従わない行動として、就業規則に違反すると判断しました。
職務上の権限逸脱・専断的行為
次に職務上の権限逸脱・専断的行為についてです。
裁判所の認定によると、次のような事実がありました。
・上司からバイトガードの装着の必要性について指導された際、習っていないなどと反論し、素直に指導を受ける姿勢に欠けていた
・自己の判断で不合理と感じた指示や助言に対して、 「主任と副主任の言うことしか聞かない」と発言し、拒否的な態度を示した
・ペアを組む職員が自身の介護経験から必要と判断した措置が自己の判断に沿わない場合、これを手伝おうとしなかった
・利用者の状況を見て日々の介護時程に沿った行動を求めたリーダーの指示に対し、「杓子定規だ」などと反論し、その指示に従わなかった
これに対して、裁判所は、このような行動は,職員が相互に職責を理解し協調することが利用者処遇に関する基本態度であることを理解するよう求めた就業規則の定めに反しているとしました。また、上司やリーダーの指示や指導を聞き入れなかったことは、職務上の権限を越えて専断的な行為をすることを禁じた就業規則に違反すると判断しました。
改善可能性
解雇は最後の手段であるという観点から、解雇の効力を判断する際には、解雇以外の手段によって「改善を図ることができないのか」という点が問題となります。
本事案では、原告労働者が解雇前に同僚の職員Bと口論となり、Bの頭部を押すなどの暴行を働き、けん責処分を受けたという事情がありました。
裁判所の認定によると、けん責処分を受けた後、原告の労働者には次のような言動がありました。
・始末書において、トラブルの原因がB職員の言動にあるかのような記載や、暴力ではなく口論であれば構わないとの姿勢を示す記載をするなど、真摯な反省の態度を示さなかった。
・トラブル後、原告は、職員間の連携に必要な声かけをせず、単独で介護業務に当たるなど、同僚職員との間の信頼関係を回復しようとする姿勢が見られず、連携を図ることが期待できない状態が続いた。
・原告の姿勢について改善を促すため、D施設長が面談の機会を設けようと電話した際、声を荒げるなど反抗的な態度を示し、その後の面接でも過去の問題を省みる姿勢を見せることなく、むしろ他の職員を批判する発言を行った。
裁判所は、これらの点について、原告に適切な指導を行っても改善が見込めないことを示す事情であると判断しました。
そして、以上から、本件解雇には、客観的合理的理由があると結論づけました。
解雇の社会的相当性について
解雇の客観的合理的理由が認められる場合でも、さらに解雇することに「社会的相当性」があるかという点が問題となります。
この点について、裁判所は次のように述べて、社会的相当性を認め、本件解雇は有効であると判断しました。
・原告には、上司の指示に従い他の職員と協同して業務を遂行するという、組織の中で職務を遂行する際求められる基本的な姿勢が欠けている。
・原告が上司や同僚職員からの指導に真摯に耳を傾ける姿勢を欠き、本件けん責処分により改善の機会が与えられたにもかかわらず、その後も勤務態度を改めなかった経緯も踏まえると、指導による改善が見込めないから、解雇は社会通念上も相当と認められる。
・本件トラブル後、表面的に他の職員とのトラブルがなかったとしても、本件解雇が社会通念上の相当性を欠くとはいえない。