1 判決日と裁判所
・平成31年4月25日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由
・普通解雇
・勤務態度不良・協調性欠如/虚偽報告・不当請求
解雇には客観的合理的理由が必要です。
就業規則には解雇事由が記載されており、それに当てはまるかどうかが問題となります。しかし、解雇事由は通常、ある程度抽象的な表現になっているため、それに該当するかどうかの判断にあたっては、結局のところ、解雇するに値する程度の事情なのかという評価が必要となります。
解雇の有効性を判断するにあたって、解雇に至るまでに指導や教育がどのように行われたのかが一つの重要なポイントになりますが、これは、是正の機会がどの程度与えられたのかを示すだけでな、解雇に至るほどの問題なのであれば、当然、解雇前に指導や教育が行われていたはずだという前提にも関わるからです。
ここでは、トラック運転手の賃上げ交渉過程における言動や虚偽報告等を理由とする解雇の効力が争われた事例をみていきます。
事案の概要
本件で原告となったのは、一般貨物自動車運送事業を行う会社に勤務していたトラック運転手たちです。
原告らは他の従業員らとともに、継続的に被告会社との間で賃上げ交渉を行っていました。しかし、ある交渉日に、会社代表者から、「解雇通知書をとるのか、これまでの交渉を白紙に戻すのか、いずれかを選択するように」と迫られ、結局、机上に置かれた解雇通知書を手に取り退室しました。
その後、原告らが解雇の無効を主張して訴えを提起したのに対し、被告会社は「原告らは合意によって退職したに過ぎない」と主張しました。また、仮に解雇によるものであっても、解雇は有効であると主張しました。
このうち、退職合意の有無について、裁判所は「退職の合意があったとは言えない」と判断しています。
ここで紹介するのは解雇の効力についてです。
被告会社が主張した解雇事由は、次のとおりでした。
・賃上げ交渉の過程で不相当な言動(他の従業員に対し賃上げ交渉に加わるよう執拗な勧誘を繰り返したこと、アイドリングストップをしなかったこと等)をしていたこと
・無線を通して被告に対する不満を述べていたこと
・作業報告書に虚偽の記載をしていたこと
裁判所の判断
裁判所は、まず「賃上げ交渉に加わるよう他の従業員に執拗な勧誘を行った」という被告会社の主張に対して、勧誘を受けたとする従業員の証言によっても、「仕事に具体的な支障は生じていなかったが、ちょっと嫌であった」という程度にとどまることを指摘しています。
また、「アイドリングストップを行わなかった」という被告会社の主張について、「賃上げ交渉がまとまっていないのにアイドリングストップをしようとは思わなかったとする態度は、従業員としての協調性の面で問題がないわけではない」としながらも、「そのことを理由に直ちに解雇することには無理がある」としています。
さらに、「原告らが車両の順番を伝える連絡を怠ったり、無線を通して被告に対する不満を述べたりした」という被告会社の主張に対しても、これを認めるに足りる証拠はないとしました。
また、仮にこのような事実があったとしても、他の運転手から苦情が述べられたり、原告らに対し、注意や指導がされたりすることもなかったことを指摘して「被告会社において解雇を検討しなければならないまでの大きな問題として捉えられていなかったのは明らか」としました。
「作業報告書に虚偽の記載をしていた」という被告会社の主張に対しても、裁判所は、次の点を指摘して解雇の合理的理由にはならないと判断しました。
・原告らが、作業時間の水増しのために、故意に異なるシフトの担当者から確認のサインをもらったり、故意にタコグラフのチャート紙の着脱を怠ったりしたなどとまで認めることはできない。
・作業証明書の確認手続やタコグラフのチャート紙の着脱について個別具体的に注意や指導をしたこともなかったことからすると、これを怠ったことをもって解雇の合理的理由と認めることも困難である。
そして、以上より、本件解雇は、解雇権を濫用したものとして無効であると判断しました。