同僚とのトラブルを理由としてなされた期間雇用社員に対する普通解雇が無効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・平成31年2月13日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・普通解雇
 ・勤務態度不良・協調性欠如

従業員間のトラブルと解雇

職場内の人間関係でトラブルが生じたような場合、一方の従業員の言動に問題があるとして解雇などの厳しい対処がなされる場合があります。

こうした場合、長年積み重なった背景事情がある場合も多く、双方の言い分がある中で、事実の認定や評価には、なかなか難しい問題が生じます。

ここでは、こうした同僚とのトラブルを理由としてなされた普通解雇の効力が争われた例について見てみます。

事案の概要

問題となったのは、先物外国為替の売買取引媒介業等を営む会社で、総務業務についていた労働者(以下「原告」)に対して行われた解雇です。

裁判所の認定によると、次のような経過がありました。

・原告は、従前より、経理部門に勤務する女性従業員Aから嫌がらせを受け続けていると感じており、憤懣を募らせていた。

・ある時、原告は、Aのデスクのところに行き、Aを呼び捨てにした上で、無視するのもいい加減にしろなどと大声を上げて怒鳴った。

・これに対 し、Aは身の危険を感じて上司のデスクのある別室に逃げ込むと、原告は、それを追って同室に向かい、上司に対し、Aから嫌 がらせを受け続けていたことを訴えた。

・上司が、 この件については人事及びコンプライアンス担当に報告して対処する旨説明したところ、原告は一応納得した様子を示して、部屋から退出して自席に戻った。

・なお、原告とAとの間では、過去に、Aが文書保存箱をデスクの脇に積み重ねたため、原告が止めてほしい旨求め、Aは上司の指示で文書保存箱を撤去する等のトラブルがあった。

なお、原告は、期間の定めのある労働契約で働く社員(契約社員)で、ここで行われたのは期間途中での普通解雇でした。

このように、期間の定めのある労働契約で働く社員について、期間途中で解雇が行われる場合には、「やむを得ない事由」が必要となります(労働契約法17条1項)。

そこで、本件でも、解雇するに足りる「やむを得ない事由」があるのかという点が問題となりました。

裁判所の判断

裁判所は、まず、Aを怒鳴りつけた原告の言動について、「粗暴であったと言わざるを得ない」としながらも

物理的な暴力を伴うものではなく、同じ日の1回きりのものであったことからすると、その一事のみをもって直ちに解雇事由に当たるとまではい えない

と評価しています。

そして、本件トラブルに至る経緯として、Aが、過去に、文書保存箱をバリケードように積み重ねるという、周囲の者からみると異様で違和感を覚えるような行動をとっており、 その後も、原告との間で軋轢が続いたことについて言及して

本件事件に至る経緯をすべて原告の責任と断ずることはできない状況にあった

としました。

そして、このような出来事の再発防止のためには

双方から更にいきさつを詳しく聴取して、 双方のわだかまりをなくす手立てをとることはもとより、原告に同様の粗暴な言動を厳に慎むよう指導、警告して、同様の事態を生じさせないよう戒めた上で更に 経過観察するなどの手段が採られるべきであった

としたのです。

また、 原告は、本件事件後に、必ずしも自らの言動について反省しているとはいえない状況にありましたが、裁判所は、原告が、長年(転籍前の会社での勤務も含め31年)にわたって継続勤務しており、この間、懲戒処分等を受けたこともないことを指摘して、

直ちに同様の事態が再発する危険性が高かったと断定するのは根拠が乏しく、少なくとも、指導、警告を行った上で経過観察する余地はあった

としました。

さらに、

原告の人事評価においては、主に人間関係の面で改善すべき点があるとの言及がされているものの、概ね期待に応えている旨の平均的な評価がされていた

ことも指摘して、以上によれば、本件解雇については、 やむを得ない事由(労働契約法 17条1項)があったとはいえないから、無効であると結論付けました。

本判決は、問題とされた行為自体の悪質性が大きいとまでは言えないことを踏まえた上で、トラブルに至る背景を丁寧に紐解き、必ずしも当該労働者だけが責められるべきものではなかったとして解雇を無効としたもので、このような従業員間のトラブルが生じたときに会社がなすべき措置を考える上で参考になる判決といえます。

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