前章では、許されない解雇が行われた場合に、これに対して何ができるのかについて、請求の内容と手続きの面から見てきました。(→第3章)
ここからは、具体的な行動な面から、解雇後にするべきこと、そして、するべきではないことについて見ていきたいと思います。
解雇後のちょっとした行動から、後々動きづらくなったり選択肢が狭まってしまうことがたくさんあります。あとで「しまった!」と思うことのないように、事前にしっかりと知識を身につけた上で行動することが大切です。
1 口頭で解雇された場合にすべきこと
第1章でも説明したように、理屈の上では、解雇と自主退職(自ら退職すること)とは明確に区別されます。しかし、実際のケースでは、区別が微妙となる場合もあります。
そのため、解雇通知などの書面を渡されることなく、口頭で解雇されたという場合には、まずもって、解雇なのかどうかを確認しましょう。
もし、「解雇ではない。単に辞めてくれと言っているだけだ」というのであれば、それは、第1章でも説明した「退職勧奨」です。
退職勧奨は、辞めて欲しいという会社からの「お願い」に過ぎませんので、あなたに辞めるつもりがないのであれば、辞めるつもりはないとはっきりと回答すれば良いのです。
一方、解雇だというのであれば、解雇通知を出すように求めましょう。というのも、後にどのような手続きをとるにせよ、大切となるのは「証拠」だからです。
口頭でのやりとりは、どうしても「言った」「言わない」の議論になってしまいます。そして大変残念なことに、会社が口頭で明確に言っていたことを後になって「言っていない」と言い出す例は、実にたくさんあるのです。
そのため、書面という明確な形で示させることが大切になってきます。具体的には、次に説明する解雇理由書の交付とあわせて請求することになります。
2 解雇通知書を渡されたらすべきこと
解雇通知書を渡された時、まずは何はともあれすべきなのは、解雇理由証明書の交付請求です。
解雇理由証明書とは、解雇の理由を記載した書面で、労働者が請求した場合、使用者はこれを交付することが義務づけられています。(労働基準法22条1項2項)
もっとも、注意すべきなのは「労働者が請求した場合」とされている点です。労働者が請求をしなければ受け取れませんので、解雇を告げられたという場合には、速やかに解雇理由証明書の交付を請求しましょう。
解雇通知書には、ごく簡単に「就業規則の○条○項に該当するため」などと記載されている場合が多いのですが、これだけでは、どのような行為が問題となっているのか分からず、解雇の理由を示していることにはなりません。
そこで、解雇理由証明書によって、具体的にどのような行為が、就業規則のどの条項に該当し、解雇理由となるのかを書面の形ではっきり示してもらうのです。
なお、就業規則の写しが手元になく、「就業規則の○条に該当する」と言われても分からないという場合は、あわせて就業規則の写しの交付も求めましょう。
解雇理由証明書の請求方法としては、口頭で「解雇理由証明書をください」と言ってももちろん良いのですが、うやむやにされたりしないように書面やメールなど、後に残る形で請求することが望ましいです。
「○月○日に、解雇通知書を受け取りましたが、解雇理由を具体的に明らかにして頂きたく、解雇理由証明書を交付してください」といった本文と、日付、差出人を記載した書面を会社に出しましょう。その際、提出した書面の写しを手元に残しておくのを忘れないでください。
争いが本格化した後で出される解雇理由証明書は、いわば「後付けの理由」も含めて入念に作成される場合があります。
そのため、本当の解雇理由を明らかにさせるためにも、出来れば解雇直後になるべく速やかに解雇理由証明書の交付を求めるのが良いでしょう。
解雇理由証明書の交付を求めても交付してもらえないという場合には、後でもご説明するように弁護士に頼んで請求してもらうという方策があります。
3 解雇理由証明書を受け取ったらすべきこと
会社に解雇理由証明書を出させ解雇の理由がはっきりしたら、これを持って速やかに弁護士に相談しましょう。
第1章や第2章で詳しくご説明したように、解雇が有効となるためには「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が必要となります。
しかし、「客観的合理的理由があるのかどうか」「社会的相当性があるのかどうか」というのは簡単に判断できるものではありません。
そこで、解雇に「客観的合理的理由」や「社会的相当性」があるのかどうか、つまり解雇の効力を争う余地について専門家の見通しを聞いてみるのです。
なお、解雇理由証明書の交付請求と、弁護士への相談のどちらを優先すべきかですが、解雇の理由がはっきりしないまま弁護士のところに相談に行っても、解雇を争う余地について十分な判断ができない場合が少なくありません。そのため、解雇理由証明書を会社に出させた上で、それを持って弁護士に相談した方が良いといえます。
ただし、自分で会社に対して解雇理由証明書の交付を要求することが難しいという場合もあるでしょうし、また、交付を求めたものの、会社が何だかんだと言って交付してくれないという場合もあるでしょう。
そのような場合は、解雇理由証明書の交付をめぐって無駄に時間を使う意味はありませんので、先に弁護士に相談に行き、弁護士から、会社に対して解雇理由証明書の交付請求をしてもらった方が良いでしょう。
4 労働基準監督署への相談
労働基準監督署は、労働基準を定める各法律が守られるようにするために設けられている監督機関で、解雇のトラブルにあったときに、この労働基準監督署に行って相談をするという方法もあります。
ただし、労働基準監督署は、その行政機関としての性質上、形式的に明確な労働法規違反については積極的に対応してくれますが、解釈に幅があって会社にも一定の言い分があるような問題については、「後は弁護士さんに相談してください」「あっせん手続きを使って話し合いをしてみたら」とだけ言われてしまうことが少なくありません。
例えば、明らかな労働基準法違反となる残業代の未払いの問題などと異なり、解雇の問題については、(もちろん相談に対応して必要な情報提供はしてくれますが)、労働基準監督署自身が会社に働きかけて問題を解決してくれるわけではないことを頭に入れておく必要があります。
5 退職を前提とした行動をとらないこと
解雇後には、退職届の提出や退職金の請求など、自分から積極的に退職を前提とするような行動をとらないように気を付ける必要があります。
解雇が無効であれば、従業員としての地位はまだ存在しているということになるのですから、例えば退職金の請求をすることはこれに矛盾する行動になってしまうのです。
また、第1章でご説明したように、解雇予告手当の請求についても注意が必要です。
解雇が無効であれば解雇予告手当の支払いを受ける根拠もないことになりますので、解雇の無効を主張しながら解雇予告手当を請求するのは矛盾する行動になってしまいます。
したがって、解雇自体を受け入れるというのであれば構いませんが、解雇を受け入れるかどうかまだ悩んでいるという場合には、解雇予告手当を請求するのは控えた方が良いといえます。
よく労働基準監督署に相談に行かれた方が、解雇自体に納得していないにもかかわらず「解雇予告手当の請求が可能ですよ」ということだけ教えられて解雇予告手当の請求をしてしまう場合があるのですが、解雇自体を受け入れるのかどうかをよく考えた上で、行動することが必要です。
また、他の会社で働き始める時も注意が必要です。
会社に対して、解雇が撤回されればいつでも働く意思があることを明確に告知した上で働かないと、のちに退職を受け入れたことの根拠とされる恐れもあります。
いずれにしても、解雇の効力を争うことを考えているのであれば、不用意な行動はとらずに、出来る限り早急に弁護士のところに相談に行くことが大切です。
終章 人生を切り拓く
「何をどうしていいか分からない」状態から、「次に何をすべきかが分かる」状態になることを目標に、解雇について知っておきたい基礎知識を整理してきましたが、いかがでしたでしょうか。
文中でも書きましたが、解雇トラブルに直面し、行動と決断を迫られた状況は、あなたがこの先の人生において何を大切にしたいのか、何を求めているのかということを深く振り返る機会でもあります。
その意味では、たとえ置かれた同じ状況であっても、人によって「正解」は異なります。
「相談者の人生にとって何が一番プラスになるのかを一緒に考える」
弁護士としても、そんな気持ちで、日々労働相談に取り組んでいます。
未来に向けた行動を起こすためには、必要な情報を収集することが大切な一歩です。そして、これを読まれたあなたは、既にその一歩を踏み出したことになります。
この記事が、あなたの人生を切り拓く一助になることを願って終わりたいと思います。
はじめに 解雇されたとき・解雇されそうなときに知っておきたいこと
第1章 解雇を巡る基礎知識
第2章 解雇はどのような場合に許されるのか
第3章 不当な解雇に対して何が出来るのかを知る
第4章 解雇されたらするべきこと、するべきではないこと