基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年11月8日
・大阪地裁
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・本採用拒否
・勤務態度不良・協調性欠如/成績不良・能力不足
「ミスの多発」「社会常識の欠如」と試用期間中の解雇
新しい職場で働き始めるときに、能力や適正をみるための期間として「試用期間」が設けられることが多くあります。
試用期間の結果、能力や適正がないとして本採用拒否するのも一種の解雇ですので、会社が自由に決められるというわけではありません。
ここでは「ミスが多い」「社会常識の欠如」などを理由として行われた本採用拒否(解雇)の効力が問題となった事例をとりあげます。
事案の概要
この事案では、労働保険事務組合業務等を行う事業協同組合に事務職員として雇用された労働者に対して、勤務開始後2か月弱で行われた解雇の効力が問題となりました。
そもそも試用期間の定めがあったかという点から争いがありましたが、裁判所は試用期間の定めはあったと認定しましたので、試用期間中の解雇として許されるかどうかが大きな争点となりました。
解雇理由として挙げられたのは、「勤務態度又は勤務成績が不良であること」です。
具体的には次のような主張がされました。
- 一般社会常識を欠く
- 仕事をしていく上で通常必要となる思考ができない
- 採用時に虚偽の事実を述べ、自ら説明していた知識や技能を有していない
- 業務に必要な専門知識を欠く
- ミスが余りにも多く、改善しようとする姿勢がみられない
- 指示や指導内容を適切に把握せず、平然とする
- 向上の意欲がなく、知らなかったことを覚えようともしないし、そのような態度を平然と示す
- 必要な業務の習得ができなかった
- その業務を習得できない様子から、原告に従事させる予定であった業務の中に担当させられないものが生じた
- 採用面接において虚偽を述べていたことが判明し、あるいは、ミスの多さ、改善意欲のなさ、コミュニケーション上の問題等から、同僚職員との間に信頼関係を築くとともに、既に悪化している信頼関係を改善することはできない
裁判所の判断
就労開始後の原告の言動について
裁判所は、解雇理由を基礎づける事実として被告が主張した原告の就労開始後の言動について、「時期や経緯が不明確なもの」「事実的側面と評価的側面が混在しているものが含まれる」といった問題点があることを指摘しながら、被告が主張するいくつかの事実(例えば、原告において、暦上で各月が何日で構成されているかを知らず、そのような態度を示したこと)があったとは認められないとしました。
この「事実的側面と評価的側面との混在」という問題は、会社が解雇理由を示す際によく見られますが、裁判では、評価の前提となる具体的な事実こそが問題となり、その事実が証拠によって認められるかが重要となります。
一般常識が欠如しているとの主張について
被告は、原告に一般常識が欠如していることや社会人としての著しい能力不足があったことを基礎付ける事情として、「来客に対して汚れた湯飲み茶碗を供用したこと」や「タオルの絞り方が不十分で床に水分が垂れ落ちたこと」を主張していました。
しかし、裁判所は、これらは、その程度が軽微なものにとどまるか、あるいは、不明であるといわざるを得ないから、「従業員として不適格であると認められるとき」に該当するとは言いがたいとしています。
また、湯飲み茶碗の共用が、来客に対するものであることを最大限考慮したとしても、解雇の客観的な合理的理由や社会通念上の相当性は認められないとしました。
被告は、「原告が始業時間に遅刻したときに公共交通機関の遅延証明書を持参しなかったこと」についても主張していました。
しかし、裁判所は、この点についても、次の点を指摘して「社会人としての著しい能力不足等が直ちに裏付けられるものではない」としています。
・各職場内部での取決めの問題にすぎないこと。
・これらの取決めが原告に対して事前にどのように告知されていたか明らかではないこと。
・被告内部におけるこれらの取決めの重要性ないし遵守すべき程度も明らかではないこと。
業務を遂行する上で必要な知識経験の不足等の主張について
原告は、就労開始から約1ヶ月後に、事業所台帳の記載を1行分見誤り、誤った内容の書面を公共職業安定所に提出したことがありました。
この点について、裁判所は、「対外的な手続がされたという意味において必ずしも軽視はできない性質もの」で、「原告自身の問題として事務処理に慎重を欠く姿勢が見受けられる」としながらも、次の点を指摘しました。
・求人票上に表示された業務内容や、被告の業務体制及び原告の配置、原告の給与額を考慮すると、原告の担当業務内容は,社労士資格を有する職員の補助であること。
・よって、書面の提出前に社労士資格を有する職員による点検や最終確認があって然るべきとみる余地があるから、その誤りを全面的に原告のみに帰責すべきではないこと。
・原告に対する具体的な指導態勢や、原告による同種事務の担当ないし関与がどの程度反復継続されていたか明らかではないこと。
・被告での就労開始以降の経過期間が約1か月であること
そして、以上からすれば、上記の業務遂行上の誤りをもって「従業員として不適格である」と認めるには足らないとしました。
その他に被告が主張していた事情についても、いずれも本採用拒否の客観的合理的理由には該当せず、社会的相当性も認められないとして、解雇は無効と判断されています。