第2章 解雇はどのような場合に許されるのか

ここからは、解雇がどのような場合に許されるのかについて、解雇の種類ごとに詳しく見ていきます。

目次

1 普通解雇

まずは、ケースとしてもっとも多い普通解雇です。

おさらいになりますが、普通解雇とは、懲戒解雇や整理解雇以外の解雇で、例えば、成績不良や適格性欠如を理由として行われる解雇でした(→第1章)。

解雇が有効となるためには、「客観的合理的理由」と「社会通念上相当であること(社会的相当性)」が必要ですが、問題は、どのような場合に「客観的合理的理由」や「社会的相当性」があるといえるのか、です。

「客観的合理的理由」と「社会的相当性」の問題を論じるときに必ず取り上げられるとても有名な判例として、「高知放送事件判決」という最高裁判決があります。

これは、宿直のアナウンサーが、寝過してラジオのニュース放送に穴をあけるという事故を2週間に二度起こしたために解雇された事案です。

この事案で最高裁は、

  • 悪意や故意がないこと
  • 放送空白時間の短さ
  • 謝罪の意の表明
  • ともに寝過した記者に対する処分が軽いものにとどまっていること
  • 会社側の事故防止対策の不備
  • 本人に過去に事故歴がないこと

等々の事情を考慮して、解雇を無効と判断しました。

ニュースに穴をあける大ミスを短期間で二度も行ったと聞くと、一般の方の感覚からすると、ひょっとすると「クビやむなし!」と思われるかもしれませんが、裁判所はかなり厳格な判断をしているのです。

この高知放送事件を含め、これまで数多くの裁判例で示されてきた客観的合理的理由や社会的相当性の判断基準について、例えば、近年の裁判例(平成29年10月18日東京高裁判決)では、次のように整理されています。

解雇事由の「客観的合理性」は

  1. 解雇事由の程度(つまり、どれだけ重大なことか)
  2. その反復継続性(1回だけのことか、何回も繰り返されたのか)
  3. 当該労働者に改善や是正の余地があるか
  4. 雇用契約の継続が困難か否か 

    等について
  5. 過去の義務違反行為の態様や
  6. これに対する労働者自身の対応等

    を総合的に勘案し、客観的な見地からこれを判断すべきである。

また、解雇の「社会的相当性」については、

客観的に合理的な解雇事由があることを前提として、本人の情状や使用者側の対応等に照らして解雇が過酷に失するか否かという見地からこれを判断すべきである。

こうしていろいろな考慮要素を並べていくと、ややこしい話に思えてくるかもしれませんが、結局は「クビもやむを得ないよね」といえるかどうか、という問題です。

そして、やむを得ないかどうかを判断する際に、裁判所が強く着目する点の一つが、解雇に至るまでに具体的にどのような改善・教育措置がとられたかという点です。

この点に着目するのは

解雇するほど重大な問題が労働者にあるというのであれば、会社としては、解雇に踏み切る前に適切な指導や改善を行うべきである。それなしでいきなり解雇することは許されない、という考え方が背景にあるからです。

実際に裁判などで争われるケースでは、会社が、解雇理由として、後付け的にいろいろな問題点を挙げてくる場合があります。

このような場合でも

本当にそのような事実があり、それが解雇に至るほどの重大な問題であるというのであれば、当然、それに対する改善・教育措置がとられたはずだ。しかし、そのような改善・教育措置がとられた事実はない。このこと自体、会社が現在問題として指摘しているような事実がないことの証である。

と反論をしていくことがよくあります。

このように、改善・教育措置がとられたかどうかというのは、解雇事由がそもそも存在するのかということとの関係でも重要となってくるのです。

ただし、会社のお金を横領した場合などのように、故意に会社に損害を与える行為については、「改善・教育措置を要する話ではない」ということから、裁判所としても割合厳しく評価判断します。

特に横領や不正請求などのように金銭が絡む問題については、金額の多い少ないにかかわらず、厳しく評価される傾向にあります。

2 病気と普通解雇

近年は、体調を崩して休職し、休職期間が満了しても復職が難しいことから解雇となる方も増えています。

休職期間が満了しても復職不可能な場合に、解雇ではなく、自然退職と規定されている場合も多くありますが、解雇にせよ自然退職にせよ、問題となるのは「復職可能かどうか」という判断です。

このときに大切となるのは、復職できるかどうかの判断にあたっては、「必ずしも、休職前に従事していた仕事に復職できる必要があるわけではない」という点です。

つまり、たとえ休職前に従事していた業種に復職することはできなくても、より負荷の軽い業種に配置転換することによって就労することができるのであれば、「復職不可」と判断することは許されないのです。

もちろん、会社の規模や事業内容によっては、負荷の軽い業種への配置転換という選択肢が現実的にはない場合もありますが、こうした選択肢がある場合には、それも検討した上で復職可能かどうかを判断せよ、というのが最高裁の確立した立場です。

3 整理解雇

経営不振による人員削減・部門の廃止など、経営上の必要性を理由に解雇を行う整理解雇については、数々の裁判例を通じて、有効となるための要件として、以下の4つの要件が確立しています。

  1. 人員整理の必要性が存在すること
  2. 解雇を回避するための努力が尽くされていること
  3. 被解雇者の選定が客観的合理的な基準によってなされたこと
  4. 労働組合または労働者に対して事前に説明し、納得を得るよう誠実に協議を行ったこと

こうした要件を満たしていないという場合には、整理解雇は無効となります。

整理解雇は、成績不良による解雇のように働く人に責任があって行われるものではなく、もっぱら会社側の事情で行われるものですので、その判断はより厳格に行われます。

また、会社のある事業所や支店が閉鎖されることになり、これに伴って当該事業所や支店で働いていた人たちがまとめて解雇されるという場合があります。

このような部門閉鎖に伴う解雇も、会社の経営上の必要性を理由に行われる整理解雇の一種ですので、上で述べたような4つの要件から有効性が判断されます。

4 懲戒解雇

懲戒解雇と労働契約法15条

懲戒解雇の大きな特徴は「制裁として行われる」という点にありました。(→第1章

このように「制裁」として行われることから、懲戒解雇が許されるためには普通解雇以上に厳しい条件があります。

懲戒解雇がどのような場合に許されるかを考える上で重要な法律が労働契約法15条です。

労働契約法15条は、会社が労働者に対して行う懲戒処分全般について

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする

としています。

これだけでは少し分かりづらいと思いますので、その意味をこれから説明していきます。

懲戒解雇と就業規則の定め

懲戒解雇が有効になされるためには、まず、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければいけません。

具体的には、どのような場合に懲戒解雇になるのかが、あらかじめ就業規則に明示されている必要があります。

また、その就業規則の内容は、「各作業場の見やすい場所での常時掲示もしくは備え付け、または書面の交付」等の方法によって、労働者に対して周知されていなければいけません(労働基準法106条)。

もし、就業規則に明示がないと、あるいは、明示されていても周知されていないと、どのような場合にどのような罰を受けるのかが分からず、労働者の行為は不当に制約されてしまいます。したがって、就業規則への明記及び周知があってはじめて、会社が「罰」を加えることが正当化されるのです。

就業規則に明示がない場合、または、明示されていても周知されていない場合には、そもそも会社に懲戒権がないものとして、懲戒解雇は無効になります。

懲戒解雇事由があるか(客観的合理的理由があるか)

次に、懲戒解雇が有効となるためには、就業規則に定められた懲戒解雇事由が存在し、客観的合理的理由があることが必要になります。

ここで注意が必要なのは、懲戒解雇事由に該当するかどうかの判断方法です。

就業規則上の懲戒解雇事由は、多くの場合、幅広い解釈が可能なように抽象的な文言で定めらています。

しかし、このような抽象的な定めが文言自体の意味だけで判断されたり、安易に拡大解釈されたりすると、懲戒解雇の対象はどこまでも広がってしまい、労働者の身分は非常に不安定になってしまいます。

そのため、懲戒解雇事由の意味内容は、限定的に解釈される傾向にあります。

社会通念上相当なものか

最後に、これまで説明したように、懲戒解雇事由が就業規則に明示・周知されており、これに該当するとしても、懲戒解雇が有効となるためには、さらに、行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものであることが必要になります。

例えば、どのような行為に対してどのような処分が下されるか、処分のバランスがとれていることが必要です。同じことをしているのに、人によって処分が異なるということも許されません。

また、処分を下す際には、本人に十分な弁明の機会が与えられなければなりません。弁明の機会を与えられないまま行われた懲戒解雇は社会通念上相当なものとはいえません。

これらの原則に照らして、社会通念上相当と言えない場合には、懲戒解雇に効力は認められない(無効となる)ということになります。

5 個別規定による制約

以上、解雇の種類に応じて、これが有効となるかどうかの判断基準について説明してきましたが、これとは別に、解雇が許されない場合を個別に定めている法律の規定もあります。

これらに該当する場合には、「客観的合理的理由」や「社会的相当性」を持ち出すまでもなく、解雇は無効ということになります。

少し細かくなりますが、いくつか具体例を見てみます。

・国籍、信条、または社会的身分に基づく差別的解雇は許されません(労働基準法3条)。

・労働者が、労働基準法違反の事実を労働基準監督署等に申告をしたことを理由とする解雇も許されません(労働基準法104条2項)。

・労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇も禁止されています(労働組合法7条1項)。

・女性労働者については、婚姻、妊娠、出産、産前産後の休業の請求取得を理由とする解雇は許されません(雇用機会均等法9条3項)。

・妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は原則無効とされ、使用者の側が婚姻、妊娠、出産等を理由とする解雇でないことを証明しなければならないとされています(雇用機会均等法9条4項)。

・労災で休業している期間及びその後30日間も解雇が許されません。

実際に、使用者が解雇をしようとする時に、例えば「あなたは労働組合に加入したから解雇する」「あなたは労働基準監督署に労基法違反の事実を申告をしたから解雇する」などと法律上禁じられた事由を正面から解雇理由にすることは普通は考えられません。

しかし、建前上もっともらしい解雇理由が掲げられていても、本当の理由は別にあることを明らかにして解雇の無効を主張することができます。

また、こうした法律の規定が存在することさえ知らない使用者もいますので、たとえば労働組合への加入や労基法違反の事実の申告に対して不利益な扱いをちらつかせるような使用者に対しては、労働組合の加入や違反事実の申告が労働者に権利として認められており、不利益取り扱いの禁止が法律上わざわざ明示されていることを示すことが有効です。

▶次ページ 第3章 不当な解雇に対して何ができるのかを知る

第4章 解雇されたらすべきこと、すべきでないこと 

▶最初から読む はじめに 解雇されたとき、解雇されそうなときに知っておきたいこと

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