試用期間満了時に成績不良・能力不足を理由に行われた解雇(本採用拒否)について有効とされた事例

【判決日 】 平成31年2月25日
【裁判所 】 東京地裁
【解雇種類】 本採用拒否
【判決結果】 解雇有効
【雇用形態】 正社員
【職種  】 専門職(コンサルタント・士業・金融・不動産)
【解雇理由】 成績不良・能力不足

事案の概要

原告は、不動産の賃貸借その他の事業を営む会社との間で、試用期間3か月とする期間の定めのない労働契約を締結した。入社後、原告は、B証券株式会社オペレーションズ部門において、監督官庁または取引所の法令等により定められた報告書の作成・提出等を主に担当する部署に配属されたが、試用期間満了時に「社員として勤務させることが不適当」として解雇通知(本採用拒否)を受けたため、その効力を争って提訴した。

裁判所の判断

(1)採用に至る経緯

  • 被告は、平成27年1月ころ、オペレーションズ部門の人材を募集していたが、募集要項においては、募集する人材に係る責任として、当局宛報告所の作成又はその正確性の確認等が記載され、基本的資質として、大学卒以上、金融業務における5年以上の実務経験、複雑な金融商品・機能に関するデータ分析、情報技術、業務運営プロセス及びコンプライアンス等の業務経験が求められるものとされていた。
  • 原告は、平成22年3月に大学を卒業し、その後3社において教育マネージャー業務、翻訳業務、ファンド取引のトレーダー業務等に従事した後、被告のオペーレションズ部門への中途採用を希望して応募し、労働契約を締結するに至った。

(2)解雇に至る経緯

  • 原告が入社後約1か月が経過した平成27年8月19日から、オペレーション部門のヴァイスプレジデントは、原告の業務遂行状況や業務上のミスの発生状況等を記録して組織的に共有する必要があると考え、業務遂行状況等が記録されることとなった。
  • 同日、原告は、自らのミスにより、コンプライアンス部門へのメールを3回送り直すこととなった。
  • 同月24日、原告は、日本国債先物オプションのレポートを誤ったこと、9個のレポートを保存すべきであったのに2個しか保存しなかったこと等の3項目のミスをした。
  • 同月25日、原告は、報告書の取引日付の誤記載やデイリーレポートの作成を失念したことなど12項目のミスをした。
  • 同月26日、原告は、エクセルシートに誤った取引日付を記載したこと等14項目のミスをした。
  • 同月27日、原告は、韓国200種株価指数に関するファイルの作成を失念し、誤った電子メールを保存したこと等4項目のミスをした。
  • 同月28日、原告は、締切期限に間に合わせるために、レポートの保存作業を完了せずにチェックリスト上は完了したものとして処理する等8項目のミスをした。
  • 同年9月4日、、ヴァイスプレジデントらは、原告との面談を実施した業務上の問題点を指摘するとともに、改善がない場合には労働契約終了の可能性があることを伝えた。
  • しかし、その後も、原告は連日、同様の業務上のミスを続けた。また、ヴァイスプレジデントは、5回にわたり原告との面談を実施し、ミスの原因等について事情聴取をするなどした。

(2)試用期間における解雇の判断基準

  • 試用期間における解雇は、解約権が留保された趣旨、目的に照らして、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される。
  • 被告の募集要項が、(正社員の一般的募集ではなく)特定部門において特定の専門的な業務を担当することを前提としている旨を明示し、求められる基本的資質も、金融業務における5年以上の実務経験、複雑な金融商品・機能に関するデータ分析の業務経験を有していること等が内容とされていたこと、原告が上述の経歴を記載した履歴書を提出して応募していることに照らすと、原告は、その職務経験等を生かした業務の遂行が期待され、被告の求める人材の要件を満たす経験者として、いわば即戦力として採用されたものと認めるのが相当であり、かつ、原告もその採用の趣旨を理解していたと言える。
  • 就業規則の定めの内容も併せて考えると、留保された解約権は試用期間中の執務状況等についての観察等に基づく採否の最終決定権を留保する趣旨のものであると解されるから、その解約権の行使の効力を考えるに当たっては、上記のような原告に係る採用の趣旨を前提とした上で、当該観察等によって被告が知悉した事実に照らして原告を引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することがこの最終決定権の留保の趣旨に徴して客観的に合理的理由を欠くものかどうか、社会通念上相当であると認められないものかどうかを検討すべきことになる。

(3)解雇の効力

  • 原業務遂行の状況やミスの発生状況等を記録し共有するようになった日以後、原告は、少なくない数の業務遂行上のミスをしており、また、それより前の時期についても、同様に業務遂行上のミスを少なからずしていたものと推認される。
  • 原告がした多数のミス は、決して軽微なものと評価すべきものということはできないし、ヴァイスプレジデントらが多数回にわたって原告に対して指導等を行ったものの、有意の改善が見られなかったものと認めるのが相当である。
  • 原告の業務上のミスは、そもそも指導等によって改善を期待するというよりも、自らの注意不足や慎重な態度を欠くことにも由来するものであると考えられる。
  • 以上の諸事情を総合的に考慮すると、原告に対する指導の中では「いくらか改善がみられる」旨が言及されたこと等の事情があったとしても、原告を引き続き雇用しておくことが適当でないとの被告の判断が客観的に合理的を欠くものであるとか、社会通念上相当なものであると認められないものであるとは解し難い。
  • したがって、本件解雇は、権利の濫用に当たるとはいうことはできず、有効である。

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