基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年2月25日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・本採用拒否
・成績不良・能力不足
本採用拒否の有効性
労働者の採用にあたり一定の試用期間を設ける場合が多く見られます。
採用の段階では分からない事情を見極めた上で、本採用をするかどうかを決めるという趣旨でもうけられる期間です。
もっとも、試用期間であっても雇用契約は既に成立していますので、本採用の拒否も解雇に他なりません。
したがって、本採用するかどうかは、会社が自由に決められるわけではなく、試用期間をもうけた趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当と言える場合にのみ本採用拒否が許されることになります。
本採用拒否の理由としてよく問題となる類型の一つが、成績不良や能力不足です。要するに、期待していたような仕事ぶりではないというようなケースですが、具体的に、どの程度の事情があれば、本採用拒否が許されるのかが大きな問題となります。
ここでは、不動産の賃貸借その他の事業を営む会社に採用された労働者に対して行われた本採用拒否の効力が争われた例について見てみます。
成績不良/能力不足の内容
当該労働者が、採用後に従事したのは、監督官庁あるいは取引所に対する法定の報告書面の作成・提出等の業務でした。
募集要項においては、特定部門における特定の専門的な業務を担当することを前提としている旨が明示されていました。また、求められる基本的資質も、金融業務における5年以上の実務経験、複雑な金融商品・機能に関するデータ分析の業務経験を有していること等が内容とされていました。
設定されていた試用期間は3ヶ月です。
裁判の中で、成績不良や能力不足を示す事情として会社から主張された事実は多岐にわたりますが、裁判所は次のような事実を認定しました。
●以下のようなミスが連日多数あった。
・9個のレポートを保存すべきであったのに、2個しか保存しなかった
・報告書の取引日付の誤記載やデイリーレポートの作成を失念した
・ファイルの作成を失念し、誤った電子メールを保存した
・締切期限に間に合わせるために、レポートの保存作業を完了せずにチェックリスト上は完了したものとして処理した等
●面談を実施し、業務上の問題点を指摘するとともに、改善がない場合には労働契約終了の可能性があることを伝えたが、その後も連日、同様の業務上のミスを続けた。
裁判所の評価・判断
これらの認定事実に基づいて、裁判所は
・原告が、少なくない数の業務遂行上のミスをしていたこと
・それら多数のミスは、軽微なものと評価できないこと
・原告に対して多数回にわたって指導等を行ったものの、有意の改善が見られなかったこと
・原告の業務上のミスは、指導等によって改善を期待するというよりも、自らの注意不足や慎重な態度を欠くことに由来するものであること
を指摘した上で、これらを考慮すると解雇(本採用拒否)は有効と結論付けました。
原告に対する指導の中では「いくらか改善がみられる」旨が言及されたといった事情もありましたが、それを踏まえても解雇権の濫用とは言えないとされています。
上で触れたように、本件では、募集の段階で、特定の専門的な業務を担当することが明記され、また、求められる基本的資質も具体的に示されていたというのが一つの大きなポイントです。
そのような状況の中、軽微とはいえないミスが多数繰り返され、しかも多数回に渡る指導によっても改善が見られなかったことから、裁判所は本採用拒否も已むなしと判断したのです。
どの程度の事情があれば本採用拒否が許されるのかを考える上での一つの事例として、参考にして頂ければと思います。