基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年10月10日
・横浜地裁
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・懲戒解雇
・着服・横領
犯罪行為と懲戒解雇
懲戒解雇の理由として着服や横領、職場での窃盗などの犯罪的行為を行ったことが挙げられる場合があります。その場合には、証拠に照らして当該事実が認められるかが慎重に検討されなければいけません。
ここでは、スーパーマーケットの従業員に対して、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由になされた懲戒解雇の効力が争われた例について見てみます。
本件で解雇の対象となった原告は、スーパーマーケットで精肉加工作業に従事していた従業員です。
精肉商品を清算しないまま店外に持ち出した行為が発覚したため、「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなった者」「会社財産の横領に関わった者」に該当するとして懲戒解雇が行われました。
原告が精肉商品を清算しないまま持ち帰ったことについては争いがありませんでした。
しかし、原告は、「知人への贈答用に梱包を行い、会計ラベルを作成し、後でレジで清算しようと考えていたものの、他の業務に追われてしまったことなどからレジでの精算失念してしまった」と主張したため、この持ち帰り行為が、故意の窃盗行為に該当するのかが問題となりました。
裁判所の判断
窃盗の故意が認められるか
裁判所は、以下の点を指摘して、原告が故意に窃盗行為をしたとは認められないと判断しました。
・本件持ち帰り行為については捜査機関による捜査が行われたが、原告への説諭のみで終了し、窃盗罪を構成するかの判断は示されていないこと
・精肉商品を清算未了のまま店外へ持ち出したという1回の行為自体は、清算を失念したという原告の説明に矛盾するものではなく、原告に窃盗の故意があったことを積極的に裏付けるものではないこと
・精肉の加工作業を他の従業員と交替し、ラベルは不要と述べた原告の行為は、窃盗の故意を裏付けるとは言いがたいこと
・ラベルは誤って洗濯し捨ててしまったという原告の説明自体は、それ自体虚偽といえるほど不自然な内容とは言えないこと
・他の従業員もいる中で本件精肉を加工・梱包し、他の従業員に私的に送る予定であると説明するなどの原告の言動は、故意に窃盗行為に及んだと考えるには大胆に過ぎ、むしろ清算を失念したという原告の主張に沿うこと
したがって、故意の犯罪の成立を前提とする「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなった者」「会社財産の横領に関わった者」にはあたらず、本件懲戒解雇は無効であると判断したのです。
被告内部の「買い物ルール」に反したとの理由付けについて
被告は、当初、就業規則に定められた懲戒解雇事由のうち「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなった者」「会社財産の横領に関わった者」に該当するとして懲戒解雇を行っていました。
しかし、裁判の途中で、原告の持ち帰り行為が、被告において従業員が店内で買い物をする際のルール(以下「買い物ルール」)に反しており、「会社の風紀を著しく乱した者」「会社の秩序を著しく乱した者」に該当するとして、予備的に再度の懲戒解雇を行いました。
当初主張していた懲戒解雇事由での立証が難しいとみて、改めて懲戒解雇を行ったものと思われます。
しかし、裁判所は、この予備的懲戒解雇についても、以下の点を指摘して、無効であるとしました。
・そもそも被告の社内において、買い物ルールが周知徹底されていたか疑問があり、少なくとも原告がこれを認識していたとは認められないこと。
・原告が未精算の指摘を受けた後、直ちに謝罪し清算しており、被告に実損害がない上、再発が危惧される事情も特段ないことからすれば、一度の違反行為が、被告の社内の風紀ないし秩序を著しく乱す行為に該当するかは疑問があること。
・当初の懲戒解雇手続きに際して被告において作成された報告書でさえ、諭旨退職相当との見解が示されていたのに、故意による窃盗行為と認定されない場合に備えて行われた予備的な懲戒解雇に際して、より軽微な処分についての真摯な検討が行われていないこと。