基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年8月1日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・普通解雇
・成績不良・能力不足/勤務態度不良・協調性欠如
事案の概要と判示内容
ここで取り上げるのは、家電販売店の売場やレジで勤務していた販売員について、成績不良や勤務態度不良を理由として行われた普通解雇が有効と判断された事案です。
裁判所は、労働者が、勤務中に無断で早退したり、売り場を離れることが多数あったこと、インカムを使って著しく不合理な内容の発言を行っていたこと、業務における事務手続上の誤りや禁止されている行動を繰り返し行ったこと、上司に対して侮辱的な内容の発言やメールを送るなどしたことを認定した上で、「業務遂行能力や勤務状況は著しく不良であった」と判示しました。
上司に対する侮辱的な内容の発言やメールというのは、例えば「バーカ」「イベリコ豚」という件名のメールを送信した、上司の言動について「気持ち悪い」などと述べた、などです。
労働者には解雇されるまでの約2年間にわたってこうした問題行動が見られ、その間に、譴責、出勤停止(7日間)、降格(降級)という合計3回の懲戒処分が出されていました。
また、この件でやや特徴的と思われるのは、会社が、労働者の問題行動が疾患に起因する可能性を考慮して、産業医との面談を行わせたり、専門医を受診させている点です。(後になされた医師の診断では、「反応性うつ病」「適応障害 心身症」等の診断がなされています)
裁判所は、この点について、会社は、労働者の問題行動が精神疾患による可能性について相当の配慮を行ったもの、と肯定的に評価しています。
そして、労働者が、休職命令の措置をとることなく解雇を行った点を問題視したのに対して、裁判所は、労働者から休職の申し出がされなかったことや、休職命令の要件となる事情が認められないことを指摘した上で、会社が、労働者の問題行動に対して、指導や懲戒処分を行っていたほか、精神科医への受診及び通院加療等を命じるなどしているのに対して、労働者が継続的な通院を怠り、問題行動を繰り返したとして、休職の措置をとることなく本件解雇に及んだとしても解雇権を濫用したとはいえないと結論づけました。
本件では、解雇の理由とされた一つ一つの行動自体に問題があることについては、あまり異論がないところだと思いますが、上でも述べたように、問題行動と疾患との関係が疑われるようなときに、会社がなすべき行動を考える上で参考になる事案と言えます。