基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年3月7日
・大阪地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・懲戒解雇
・虚偽報告・不当請求/勤務態度不良・協調性欠如/欠勤・遅刻・早退/情報漏洩
非違行為と懲戒解雇
懲戒解雇は、労働者に対する罰としてその地位を奪うという大変重大な結果をもたらすため、その実施には厳しい制約が設けられています。
具体的には、就業規則に懲戒事由とそれに対する懲戒罰が定められていることを前提として、懲戒解雇事由に該当する客観的合理的理由があることが必要です。さらに、懲戒解雇事由に該当する場合あっても、懲戒解雇という重い処分を下すだけの社会的相当性が必要となります。
問題は、具体的にどのような事情があれば、懲戒解雇の客観的合理的理由や社会的相当性が認められるかという点です。
ここでは、幼少中高一貫教育を提供する学校法人で事務局長を務めていた労働者に対し、不当請求や越権行為、無断欠勤、情報漏洩などを理由に行われた行われた懲戒解雇の効力が争われた事例について見ていきます。
事案の概要
原告労働者は、幼少中高一貫教育を提供する学校法人(被告Y1)で事務局長として主に人事会計業務に従事していました。
また、この学校法人に対して教員の手配や備品の調達等の業務を行う会社(被告Y2)では、営業職を行う使用人兼務取締役を務めていました。
そうしたところ、被告Y1、被告Y2それぞれから懲戒解雇されたのです。
被告Y1が挙げた懲戒解雇の理由は以下のとおりでした。
①被告Y2が通勤費を全額負担しているにも関わらず、被告Y1に対して通勤定期代を請求し、受領したこと
②被告Y1の小学校の制服変更等を、所定の手続きを経ずに行い、職務上の権限を越える行為を行ったこと
③出勤簿に押印しながら勤務をしていなかった日が56日間あり、就労期間中に職務と関係のない作業を行ったこと
④職員採用試験に関する機密を外部に漏洩したこと
裁判所の判断
(1)懲戒解雇事由の該当性について
ア 不正受給
裁判所は、原告が、被告Y1から通勤手当として5年間にわたり合計237万150円を受給した一方で、被告Y2から自動車通勤のための費用を支給されていた事実を認定した上で、このような行為は、就業規則上の以下の懲戒解雇事由に該当するとしました。
・不正不正義な行為によって教職員としての体面を汚し、著しく私利をはかり、又は当学院に損害を与えたとき
・刑法その他の刑罰法規に触れる行為があって、懲戒処分に処することが相当と認めたとき
・勤務に関する諸手続、諸届出または諸報告を偽り、不当に利益を得たとき
・前各号に準ずる不都合な行為があったほか、この規則もしくは当学院の諸規定等又は命令に違反したとき
イ 越権行為
裁判所は、原告が、正規の手続きを経ないまま、小学校制服等取扱業者変更に係る文書を発出した事実を認定した上で、このような行為は、就業規則上の懲戒事由である「当学院の規律を無視し、また職務上の指示命令に従わず、越権専断の行為を行って職場の秩序を著しく乱し、または乱そうとしたとき」に該当するとしました。
ウ 無断欠勤
裁判所は、原告が、実際に出勤をしていないにもかかわらず、出勤簿に押印するなどして勤務実態を偽装していた事実を認定した上で、このような行為は、就業規則上の以下の懲戒解雇事由に該当するとしました。
・職務に怠慢を認めたとき
・無届または虚偽の届出又は正当な事由なくして、遅刻、早退、又は欠勤したとき
・前各号に準ずる不都合な行為があったほか、この規則もしくは当学院の諸規定等又は命令に違反したとき
エ 職務不専念
裁判所は、原告が、被告Y1の勤務期間中に、被告Y1に属さない学校に関する海外研修旅行に関する助言、マンション規約の作成、海外研修プログラムとコンサルティング業務を提供する会社の設立準備といった業務外の行為を行っていた事実を認定した上で、このような行為は、職務に専念しないという意味での規律違反があるから、就業規則上の以下の懲戒解雇事由に該当するとしました。
・当学院の規律を無視し、また職務上の指示命令に従わず、越権専断の行為を行って職場の秩序を著しく乱し、または乱そうとしたとき
・前各号に準ずる不都合な行為があったほか、この規則もしくは当学院の諸規定等又は命令に違反したとき
オ 情報漏洩
裁判所は、原告が、被告Y1の職員以外の者に採用試験の結果をその発表前に明らかにした事実を認定した上で、このような行為は、就業規則上の以下の懲戒解雇事由に該当するとしました。
・当学院の規律を無視し、また職務上の指示命令に従わず、越権専断の行為を行って職場の秩序を著しく乱し、または乱そうとしたとき
・前各号に準ずる不都合な行為があったほか、この規則もしくは当学院の諸規定等又は命令に違反したとき
(2)客観的合理的理由及び社会的相当性
以上を前提に、裁判所は、原告による行為は、以下の点に照らすと、被告Y1の秩序に重大な影響を及ぼすものであるとして、懲戒解雇の客観的合理的理由および社会通念上の相当性を認め、懲戒解雇は有効であるとしました。
・使用者の指揮命令から大きく逸脱するものであり、特に通勤手当の不正受給が長期間にわたり金額も高額であること
・小学校の制服取扱業者変更に係る文書の発出が取扱業者との間で混乱を生じさせ、古くからの取扱業者との取引を拒絶されるに至ったこと