証券会社の社員に対して勤務成績の不良などを理由に行われた普通解雇が無効と判断された裁判例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和2年1月14日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由の分類
 ・普通解雇
 ・成績不良・能力不足

業務の質の評価

勤務成績の不良が解雇の理由とされる場合がありますが、業務の質の評価というのは本当に難しいものです。

こうしたケースでは往々にして在職中の人事評価書などが証拠として提出されますが、一見客観的な評価がされているようでも、結局は評価者の主観が入り込むことは避けられず、果たしてどこまでこれを信用性のあるものとして見るかという問題があります。

また、改善指導に関しても、例えば「もっと積極性な姿勢を」といった抽象的なレベルの指導が繰り返されても、改善の機会が与えられているとはいえず、あまり意味があるとは言えません。

ここでは、証券会社の営業部に所属していた労働者に対して、勤務成績の不良などを理由に行われた普通解雇の効力が争われた例について見ていきます。

事案の概要

解雇の対象となった労働者(原告)は、営業部で、顧客(機関投資家)の依頼に基づいて企業価値の分析や定期的なレポートを行うなどの業務を行っていました。

しかし、「不十分な業績」についての数度の書面による注意を経た後に、「勤務態度及び勤務成績が不良であり改善の見込みがないこと」を理由として普通解雇されました。

やや特徴的と言えるのは、原告の賃金額が相当に高額(基本年俸約2200万円)であった点です。そのため、会社からは「高給をもって採用される従業員の働きが雇用主の期待に添わない場合には最終的には退職を求められる立場にある」といった主張もされました。

被告が主張した「原告の問題点」と裁判所の判断

データの品質管理の懈怠

被告は「原告は財務データの品質管理を適切に行っていなかった」と主張し、その例として、原告が上司の依頼を受けて送信した財務データに誤りがあったことを挙げました。

しかし、裁判所は、次の点を指摘した上で、このエピソードをもって「原告の資質能力等に改善困難な問題があるとか、業務に対する姿勢に深刻な問題があると評価することはできない」としました。

・データの不備自体は原告より前の担当者が入力し忘れていたものであること。

・その後誰も不備を指摘していなかったこと。

・上司の依頼は内部的な検討のためのものであったこと。

・不備の分析における影響度も小さいこと。

データの分析やレポートについて

また、被告は「原告の分析やレポートの質が低く、原告がこれを改善する姿勢も見せなかった」と主張して、その例として、原告が作成したレポートについて、上司による修正指導が繰りかえされた後、結局上司の了解を得られず公表に至らなかったことなどを挙げました。

しかし、裁判所は、次の点を指摘して、これによって客観的に原告の理解が欠けていたとか、改善の姿勢を有していなかったと評価することはできないとしました。

・上司の要求内容の多くが「スライドの説得力がない」とか「よりインパクトのあるヘッダーを記載すべき」といった抽象的なものであったこと。

・レポート案はもともと公表するために作成されたものではなかったこと。

積極性の欠如等について

被告は、原告に積極性が欠如し、顧客からの認知も不足していたと主張し、原告の作成したレポートの数の少なさや顧客との会議の少なさを挙げました。

しかし、裁判所は、これを裏付ける的確な証拠はないとし、「少なくとも原告が頻繁に督促を受けるまでデータの分析屋レポートの作成を行わなかったとの事実は認められない」「従業員の担当する具体的な業務には違いがあるから、顧客との会議の回数の多寡をもって、直ちに原告の積極性が欠如しているなどとは言えない」としました。

勤務態度及び勤務成績について

さらに、被告は、「原告の知識、理解、技能及び経験が著しく不十分な水準にとどまっており、再三にわたる指導をしても一向に改善に応じなかった」と主張しました。

しかし裁判所は、原告の勤務態度について評価書に記載された内容が具体性のあるものではなく、また、上司の要求事項も抽象的なもので、このような指摘があったことから直ちに原告の業務の質に客観的な不足があったと認めることはできないとしました。

解雇は無効

裁判所は、「高給をもって採用される従業員の働きが雇用主の期待に添わない場合には最終的には退職を求められる立場にある」という会社の主張に対して、原告には「即戦力の中途採用者」という側面があるとしつつも、次の点を指摘して、このような側面を重視することはできないとしました。

原告は、当初の年棒額が1200万円であったところ、その後、昇進や昇給を経てきたこと。

解雇まで12年間にわたり勤務を継続し、その間には所属部署の異動もあったこと。

そして、「相当に高額な賃金に相応しい水準の業務が求められるという一般的な観点を考慮しても」本件解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上の相当性も認められないとして、無効と結論づけました。

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