雇止めの法理と更新申し入れ
期間の定めのある雇用契約を更新しない、いわゆる「雇止め」については、一定の場合にはこれを許さないとする「雇止めの法理」が判例上形成されてきました。
そして、このような「雇止めの法理」は、現在、労働契約法という法律の上でも明文化されています(19条)。(参考▼雇い止めはどのようなときに許されるか)
ところで、この労働契約法19条では、会社による更新拒絶が許されなくなるための要件(条件)として、「契約期間が満了する日までの間に労働者が更新の申込みをした場合、または、契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした場合」と定められています。
これは従来の裁判例上では特段問題とされてこなかった点ですが、雇止めの法理を明文化するにあたって盛り込まれた条件です。
通常、雇止めの可否が争われる場合には、契約期間が満了し働けなくなると、そう遅くない時期に、労働者が不服の意思表示や訴訟提起などの何らかのアクションを起こすことになることから、あまりこの条件が問題になることはありません。
しかし、事案によっては、この条件を満たしていないことを理由に、雇止めの法理による保護が図られなくなるケースもあります。
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雇止めから長期間経過後の異議
例えば、短大において、期間1年の有期契約で32年間にわたりピアノ講師として働いていた労働者に対する雇止めの可否が争われた裁判例(大阪地裁平成28年3月24日判決)を見てみます。
この事案では、契約期間満了の約2週間前に次期の契約を締結しない旨が通知されましたが、労働者が弁護士を通じて雇止めは無効である旨を通知したのは、雇用期間満了から約1年4ヶ月後のことでした。
裁判所は、まず、雇用契約が32年という長期にわたって繰り返されていることや、同様の立場にある他の多数のピアノ講師も長期にわたって契約が繰り返されていることからすると、当該雇用契約は雇止めの法理によって保護される二つの契約類型(①当該雇用契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約における解雇と実質的に同視しうるもの②労働者が契約の更新を期待することに合理的理由があるもの)のいずれにも該当するとしました。
しかし、労働者が雇止めに対して異議を述べたのが契約期間満了から約1年4ヶ月後の通知が初めてであったこと等から、契約期間の満了前に労働者が更新の申込みをしたといえず、また、契約期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたともいえないとして、請求を棄却したのです。
異議を述べるのが遅れた理由の一つとして、当該労働者は、雇止めを通告されたことで精神的ショックを受けて体調を崩した等とも主張しましたが、裁判所は「原告は精神的ショックを受けて気力を喪失したというにとどまり、たとえば精神疾患を発症した等の客観的にみて契約更新の申込みをすることが不能な状況にあったというものではない」等として、このような主張を排斥しています。
遅滞なく異議を述べておくこと
労働者からの有期労働契約(更新)の申込みは、「契約期間の満了前」または「契約期間の満了後遅滞なく」行うことが求められています。
「遅滞なく」というのは、「遅くない時期に」という意味で、「直ちに」あるいは「速やかに」というよりもある程度時間的な余裕はあるのですが、あまりもアクションを起こすのが遅くなると、このケースのように、保護が図られなくなる可能性が出てきます。
したがって、雇止めに不服があるという場合には、早めにそのことを会社に伝え、またアクションを起こすことが大切です。
その他、雇止めに対する法規制全般について知りたい方はこちらをご覧ください。
▼雇い止めはどのようなときに許されるか
雇止め時に退職届けの提出を求められる場合もあります。
▼雇止め時に退職届の提出を求められたら知っておきたいこと
不安定な立場にある有期雇用を無期雇用に転換させる方法があります。
▼契約社員が無期雇用になるために何をすべきか
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