精神疾患などで休職をしたあと、「そろそろ復職したい」と会社に申し出たのに、「まだ復職は認められない」と言われてしまうケースは少なくありません。
多くの会社では、休職期間が満了しても復職できない場合には「自然退職」とする定めを設けているため、復職できるかどうかの判断は、労働者にとって非常に重大な問題となります。
復職可能かどうはあくまでも医学的・客観的な状態を元に判断されるべきもので、会社が根拠もなく復職を拒むことは許されません。
本記事では、復職を拒否された際に確認すべきポイント、会社が復職を拒否できる条件、そして労働者が取り得る具体的な対応や法的手段について解説します。
復職拒否が行われる場面
会社に復職を申し出たにもかかわらず、「まだ復職は難しい」と言われて復帰が認められない――
こうした会社側による復職の拒否は、実務上たびたび問題となります。
例えば次のような状況です。
・主治医は「就労可能」と診断しているのに、会社指定の産業医が「不可」と判断した
・「業務が繁忙で受け入れが難しい」「配置できる部署がない」と言われた
・「もう少し様子を見たい」「検討中」といった曖昧な理由で先送りにされる
もちろん、会社にも安全配慮義務があるため、本当に勤務が難しい場合や安全確保に支障がある場合には、復職を見合わせることもあります。
しかし、復職の可否は、あくまでも医学的・客観的な状態をもとに判断されるべきものです。
会社の主観的な印象や社内事情のみで決めることはできません。
会社が復職を拒否できるのはどんな場合か
では、どのような場合に復職拒否が許されるのでしょうか。「復職可能かどうか」の判断方法についてもう少し詳しく見ていきます。
配置転換の可能性の考慮
平成10年4月9日片山組事件最高裁判決は、復職の可否の判断にあたっては、「休職者の能力や経験、地位、企業の規模、業種、労働者の配置異動の実情等に照らして、他の業種への配転の現実的可能性がある場合には、その配転が可能かどうかを検討する必要がある」と述べました。
つまり、復職可能かどうかの判断にあたっては、必ずしも「休職前に従事していた仕事」に限定して考える必要があるわけではないのです。
言い方を変えれば、会社が復職拒否を正当にできるためには、こうした配転の可能性も考慮した上で、なお復職が医学的・客観的に不可能な状態である必要があるということになります。
手続的・形式的な定めについて
平成26年8月20日東京地裁判決は、会社指定医の診断書を提出しなければ復職できないとする就業規則の定めがあった事案ですが、文字通り「会社指定医による診断書がなければ復職できない」とする形式的な運用を否定し、「医師の診断書等によって労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができると認められる場合」であれば足りるという判断をしました。
つまり、会社が復職拒否を正当にできるためには、こうした形式的な観点ではなく、実質的に就労可能性を検討・確認した上での判断がなされる必要があるのです。(詳しくは、休職期間満了時の解雇が許されるか)
相当の期間内の回復可能性
うつ病による休職期間満了時の復職可能性について問題となった平成28年9月28日東京地裁判決は、復職可能とは、「基本的には従前の職務を通常程度に行う事ができる状態にある場合をいう」としながらも、たとえそれに至らない場合であっても、「当該労働者の能力,経験,地位,その精神的不調の回復の程度等に照らして,相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合を含むと解すべき」としました。
つまり、相当の期間内に通常の業務を遂行できる程度に回復する見込みがあるかという点もあわせて検討される必要があるのです。(詳しくは、うつ病による休職後の復職可能性はどう判断されるか)
復職を拒否されたときの対応ステップ
会社から「まだ復職は認められない」と言われた場合、感情的に反発する前に、まずは冷静に状況を整理することが大切です。
復職拒否の妥当性を確認し、必要な証拠を残しておくことが、後の交渉や法的手段につながります。
ここでは、労働者が取るべき具体的なステップを順に説明します。
①復職が認められない理由を文書で明らかにしてもらう
まず、会社が復職を認めない理由を書面で明らかにしてもらいましょう。
何を根拠に、どのような検討を行い判断したのかを、出来るだけ詳しく説明してもらうのです。
後に争いになった際、会社の判断経緯を示す資料は非常に有力な証拠となります。
② 主治医と相談し、意見を聞く
復職の可否は医学的に判断されるべきものです。①で明らかとなった会社の懸念点や検討材料も伝えた上で、主治医の率直な意見を伺いましょう。
現在の状態や勤務上の制限、配慮事項、条件などを具体的に記載した、より詳しい診断書を作成してもらえるようであれば作成してもらいましょう。
この時点でのあなたの状態や医師の判断を明らかにするものとして、重要な資料となります。また、復職交渉にあたっての有力な材料になります。
③ 会社指定の医師・産業医の意見との相違がある場合は調整を求める
主治医と会社指定医の意見が異なる場合は、第三者的な医師による再評価や、複数の医師による総合的判断を求めることが考えられます。
単に「産業医がダメと言ったから」「会社指定の医師の診断書がないから」といった形式的な理由で復職を拒否することは許されません。
④ 配転・時短勤務など柔軟な復職条件を提案する
すぐにフルタイム勤務が難しい場合でも、
・軽易な業務への配置転換
・時短勤務や段階的な復職(リハビリ勤務)
など、現実的な提案をすることで復職の道が開ける場合があります。
こうした点の検討過程も書面で明らかにしてもらいましょう。
⑤ 労働組合や弁護士に相談する
会社とのやり取りで解決が難しい場合は、労働組合や弁護士に早めに相談しましょう。
復職を巡る争いでは当事者間の感情的なやりとりで事態がより悪化することもあります。
第三者的視点から状況を整理し、冷静に事を進めていく上でも早めにアドバイスを求めることが大切です。
⑥ 証拠を残しておく
・会社とのメール・書面のやり取り
・医師の診断書・意見書
・リハビリ勤務中の勤怠記録・業務内容
これらを残しておくことで、「実際には働ける状態だった」「会社が十分に検討していなかった」という主張を裏付けることができます。
後に振り返ることができるように、経緯をメモし、また、資料を整理しておくことが重要です。
まとめ
復職拒否の問題は、感情的な対立に発展しやすい一方で、最終的には医学的・客観的な資料が重要になります。
復職すれば終わりではなく、その後が大事であることも考えると,むやみと対立的になるのも望ましくありません。
早い段階で医師の意見を整理し、冷静に会社に説明を求めることが、トラブルを防ぐ最善の方法です。
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