基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年2月26日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・懲戒解雇
・着服・横領
横領と懲戒解雇
懲戒解雇が行われる典型的な例の一つとして、会社の金銭を着服横領したことが理由となる場合があります。
横領や着服行為は、それ自体が刑法上の犯罪となりうる行為ですし、雇用関係の基礎となる使用者と労働者との間の信頼関係を直接揺るがす行為です。そのため、金額の大小にかかわらず厳しく評価されるといえます。
もっとも、そうであればこそ、労働者が事実関係を争っている場合には、本当に着服や横領行為があったのかという事実関係の認定が重大な問題となります。また、弁明の機会が与えられたかなど、解雇に至る手続きの適正さも問われることになります。
ここでは、化学繊維の製造・加工・売買を行う会社で、長年、秘書室に所属していた労働者に対して行われた懲戒解雇の効力が争われたケースを見ていきます。
問題とされた着服横領行為
懲戒解雇の理由は、長年にわたって、実際には慶弔金として現金を用意するよう指示されておらず、現金を渡したこともなかったのに、それがあったかのように見せかけて、虚偽の支払い証明書などの書類を作成・提出し、最終的に会社から合計850万円を騙し取ったというものです。
これに対して、原告は金銭を騙しとった事実はないとして、事実関係から争いました。
しかし、裁判所は、原告の主張を認めず、原告が社長からの指示もないまま虚偽の支払い証明書を作成し、59回にわたって合計850万円を着服したと認定しました。
懲戒解雇の効力
このような認定をもとに、裁判所は懲戒解雇を有効と判断しました。
着服横領行為の内容に照らせば、それ自体はおそらく異論のないところだとは思いますが、懲戒解雇の効力を判断するにあたり、裁判所は次のように述べています。
会社は、支払証明書等が作成され、その結果本件各支払がされた経緯について、客観的証拠を精査し、弁護士において複数回長時間にわたり必要な事情聴取を行い、関係者からも必要な事情聴取を行った上で、上記事実を認定し懲戒解雇を行っており、被告の事実認定手続きについて、本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないというべき理由はない。
労働者が事実関係を争っている場合には、客観的証拠に基づいて、また労働者の言い分や説明も十分に聞いた上で事実を認定していく姿勢が会社には求められます。