「業務上の病気のために療養している期間中の解雇である」旨の主張を退けて解雇を有効と判断した事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和元年6月10日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇有効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・普通解雇
 ・病気・怪我による就労不能
 
4 当事者に関する事情
【事業内容】
 日本蕎麦店及び日本料理店
【雇用形態】
 正社員
【職  種】
 サービス・販売・外食
【職務内容】
 調理下ごしらえや清掃等の作業

問題とされた労働者の行為等

労働者は、右腕上腕骨外側上顆炎(以下、「本件疾病」)の診断を受け、8ヶ月以上にわたり休業したところ、解雇された。

解雇に対して「業務上の病気のために療養している期間中の解雇であるから無効である」(労働基準法19条1項)旨の主張を行った。

裁判所の判断

業務上の病気のために療養している期間中の解雇であるから無効であるという主張について

・確かに、本件疾病は上腕部にある伸筋群の使いすぎにより生じる疾病であるところ、原告が従事していたのは上腕部の伸筋群を一定程度使用する作業といえる。また、原告の労働時間は80時間を超える時間外労働が生じたこともあった。

・これらの事情からすれば、原告の業務と本件疾病との間には、何らかの関連がある可能性を直ちには否定できない。

・しかし、原告の作業は、上腕部の動きが特に激しいとか、特に上腕部に大きな負荷がかかるような作業とはいえない。

・原告が上腕部の伸筋群を使用する作業に従事していた時間は、1日の労働時間のうちそれほど長い時間であったわけではかった。

・本件疾病は保存療法もしくは自然経過により大部分が軽快するとされているところ、上肢に負担のかかる作業をしなくなった休業開始から半年以上が経過した後も、1日4時間程度の制限勤務で、重量物取り扱いや強い力を使う作業を控えながらの勤務が可能な状態までしか回復しなかった。

・かかる経過からすれば、解雇30日前の時点における原告の本件疾病は、業務との関連性には疑問がある。

・加えて、原告は本件解雇時頃に頸椎椎間板ヘルニアも罹患していたところ、原告の状態は頸椎間板ヘルニアの影響によるものである可能性を否定し難い。

・以上によれば、本件解雇の30日前の時点における本件疾病と業務との間に相当因果関係を認めることはできないから、本件解雇は、業務上の疾病にかかり療養のために休業していた労働者に対する解雇にはあたらない。

解雇の客観的合理的理由及び社会的相当性の有無

・休業後約3ヶ月にわたって安静休業を要するとされ、その後約5ヶ月にわたり、1日4時間程度の勤務しかできない状態が継続していたから、段階的であっても真に改善していたのか疑問なしとしない。

・休業後約8ヶ月を経過した時点でもなお重量物等を取り扱う作業を控えた上で1日4時間程度の勤務が可能であったにとどまるから、解雇時点では、上記状態が回復する見通しが立っていなかったと認めるのが相当。

・このように、本件労働契約における債務の本旨に従った労務の提供を行うことがおよそ困難な状態が約5ヶ月にわたって継続しており、しかも、休業開始から約8ヶ月が経過した時点でなおそのような状態からの回復の見通しが立っていなかったことに照らせば、本件解雇は客観的合理的理由があり、社会通念上相当である。

・よって、本件解雇は有効。

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