基本情報
1 判決日と裁判所
・令和2年1月29日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・懲戒解雇
・情報漏洩
情報漏洩と解雇
労働者は、労働契約に付随する義務として、使用者の正当な利益を信頼関係を破壊するような不当な態様で侵害してはならないという義務(誠実義務)を負っています。
その誠実義務の一環として、労働者は、秘密を保持すべき義務も負っています。情報漏洩は、この秘密保持義務との関係で問題となる行為です。
多くの会社の就業規則では、服務規律の一つとして守秘義務を掲げ、また、懲戒事由として情報漏洩を挙げています。情報の価値がますます増大化する現代においては、情報漏洩が企業秩序に与える影響も増していると言えます。
一方で、情報漏洩を問題とする以上、その情報が従前、会社内でどう扱われていたのか、という点も問題となります。秘密の管理や情報の管理が杜撰な状態な中で、恣意的に情報漏洩を問題とすることは許されないでしょう。その意味で、労働者の情報漏洩を問題とする場面では、情報セキュリティに対する日常的な会社の姿勢も問われることになります。
ここでは、情報漏洩を理由に行われた懲戒解雇の効力について見ていきます。
事案の概要
この事案では、銀行の行員が、約3年半にわたって、対外秘である行内通達などを無断で多数持ち出し、新聞社や出版社に送付するなどした行為が問題となりました。
漏洩行為の結果、雑誌には当該資料そのものが掲載され、これに関する記事が複数回掲載されるなどしました。
調査の結果、当該行員の行為であることが発覚したことから、銀行は「会社の信用、名誉を傷つけ、または会社に損害を及ぼすような行為があったとき」「経営上、業務上の秘密、業務上知り得た秘密などを正当な理由無く漏らし、また漏らそうとしたとき」といった懲戒事由に該当するとして懲戒解雇を行いました。
裁判所の判断
裁判所は、原告(行員)の行為が、懲戒解雇事由に該当するとした上で、その処分の相当性について次の点を指摘しました。
・被告は、情報セキュリティ規定を定め、被告職員に対して情報セキュリティ対策の徹底を図っていたところ、原告は、その基本的な規律に違反していることを認識しながら、厳格な管理を要する情報として分類されている情報を含む情報を持ち出し、出版社などに常習的に漏洩していたものであって、その行為は、情報資産の適切な保護利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為である。
・漏洩の結果、通達そのものが雑誌に掲載され、また記事が執筆されるなど、被告の情報管理体制に対する疑念を世間に生じさせ、被告の社会的評価を相応に低下させた。
・原告は、一般の顧客を装って多数のクレーム電話をかけた行為で過去にけん責処分を受け、その際提出した顛末書には他に服務規律違反は一切ない旨誓約していたのに、その時期頃から既に情報漏洩行為を繰り返しており、けん責処分による反省は見られない。
そして、以上を総合すると、処分の量定として懲戒解雇を選択することはやむを得なかったとして、懲戒解雇の客観的合理理由及び社会的相当性を認めました。
原告は、「漏洩にかかる情報は、仮に被告外に漏れても何ら問題のない内容のものだった」という主張もしていましたが、これに対して裁判所は、これらの情報が被告において厳格または適切な管理を要する情報として整理され、現に管理されていたことを指摘して、これを退けています。

