基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年5月17日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・普通解雇
・欠勤・遅刻・早退
欠勤と解雇
労働者が正当な理由なく勤務しないことは、労働契約における基本的な義務を怠るものといえます。したがって、その状態が続けば当然解雇の問題が生じてきます。
一方で、労働者からはさまざまな事情により、勤務しない理由が主張されることがあります。その場合、それが勤務を拒む正当な理由といえるかが問題となります。
ここでは、一度懲戒解雇が行われた後、会社がこれを撤回して出社を求めたにもかかわらず、労働者がこれに応じなかったとして、再度行われた普通解雇の有効性が争われた例について見てみます。
事案の概要
本件で原告となったのは、不動産の売買や賃貸などを行う会社で財務部長として働いていた労働者です。
原告は、勤務時間中に他の業務を行ったことなどを理由に懲戒解雇されました(第一次解雇)。そのため、この解雇は不当であるとして、その撤回と復職を求めたところ、会社は解雇を撤回し、原告に出社して勤務するよう命じました。
ただし、その際、会社は原告を財務部長から降格させ、財務部所属の従業員として勤務するよう命じました。
これに対し、原告はその後も出社せず、会社からの度重なる出社命令にも応じませんでした。
そうしたところ、会社は就業規則の解雇事由である「正当な理由なく無断欠勤を3日以上におよび、出勤の督促に応じないとき」に該当するとして、原告を普通解雇しました(第二次解雇)。
原告は、出社しなかった理由として、以下の点について会社に適切な対応を求めていたにもかかわらず、適切な対応がなされなかったためであると主張しました。
①財務部長職を不当に解職されたこと
②賃金が未払いで、給与明細書の交付もなかったこと
③雇用契約締結時に、原告が精神疾患を患う妻のケアが必要となった場合には配慮するとの特別条件が合意されていたが、それが反故にされたこと
④会社が法人税法違反などの行為やその疑いのある行為を繰り返しており、原告が巻き込まれないようにする保証がなされなかったこと
裁判所の判断
裁判所はまず、労務提供が可能であったかについて、会社が第一次解雇を撤回し、さらに出社命令を発して労務提供を促していたことから、「労務提供義務は客観的に履行可能であった」と判断しました。
次に、原告が出勤しない理由として挙げていた「財務部長職を不当に解職された」という点について、次の点を指摘して、労務提供を拒否する正当な理由にはならないとしました。
・財務部長職の解職には必要性が認められ、不当な目的も認められないこと
・給与条件は従前どおりであり、不利益が著しいとはいえないこと
その他に、原告が主張した「出勤に応じなかった理由」のうち、「精神疾患を患う妻のケアが必要となった場合には配慮するとの特別条件の合意」については、そのような合意があったこと自体認められないとしました。
また、裁判所は「賃金が未払いで、給与明細書の交付もなかった」「法人税法違反行為等に原告が巻き込まれないようにする保証がなされなかった」との原告の主張については、仮にこれらの主張が事実であったとしても、労務提供を拒否する正当な理由にはならないと判断しました。
そして、裁判所は、就業規則上の解雇事由である「正当な理由なく無断欠勤を3日以上に及び、出勤の督促に応じないとき」に該当する事由があったとした上で、以下の点からすると、本件二次解雇には社会的相当性も認められるとしました。
・高額な賃金待遇を受けるなど枢要な処遇を受けていたにもかかわらず一切の出社に応じなかったこと
・原告がその要求事項が満たされない限りは労務提供をしないとの態度を強めており、たやすくその意向が改善されるともみられなかった経過があったこと
以上より、本件第二次解雇は有効であると判断しました。