基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年3月26日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・普通解雇
・成績不良・能力不足/勤務態度不良・協調性欠如
勤務態度の不良と解雇
昨今、「働かないおじさん」という言葉を目にすることがあります。
組織内で年齢や経験を重ねながらも、仕事への積極性が見られない社員を指す言葉として使われるようですが、必ずしも本人の意図や能力だけによるものではなく、人事制度のあり方や評価基準、サポート体制が影響していることも少なくありません。そのため、こうした状況についてはさまざまな観点からの議論がされています。
「働かない」というのは解雇理由の類型で言えば「勤務態度の不良」ということになります。
勤務態度の不良は典型的な解雇理由の一つですが、具体的にどのような事情があれば解雇に足るのかについては、個別具体的な話になるため、イメージを持つことは容易ではありません。
また、裁判では証拠による証明が必要となりますが、「働かない」という場合は、横領行為や暴行行為といった具体的行為とは異なり、細かな事実の積み重ねによるため、どのように証拠によって立証されるのかという問題があることにも注意が必要です。
ここでは、医療法人の人事課職員に対して「勤務態度・勤務成績の不良」を理由に行われた解雇の効力が争われた事例について見ていきます。
問題とされた労働者の行為等
裁判所の認定によると、当該労働者には次のような状況が認められました。
・原告は、人事課における月初の優先業務である給与計算業務をほとんど行わなくなり、業務量が著しく少なくなっていた。
・上司から指示された業務に従事することを断るなど、仕事に誠実に取り組もうとする姿勢や意欲が欠如していた。
・勤務時間中に私物の新聞や雑誌を読んだり、インターネットを利用したり、居眠りやコンビニへの外出といった業務とは関係のない私的な行為を平然と行うことが常態化していた。
・こうした勤務態度について、上司から繰り返し面談で注意・指導を受けていたが、原告は、新聞・雑誌の閲読について「業務に関係する情報収集」と弁解したり、給与計算業務については「自分の担当業務ではなく、担当業務の割り振りの問題」と主張するなど、真摯に受け止めようとする姿勢に乏しく、勤務態度を改めなかった。
裁判所の判断
裁判所は、上記の事情のもとで、原告が就業規則の解雇事由である「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、職員としての職責を果たし得ないと認められたとき」「協調性に著しく欠け、注意指導しても改善の見込みがないと認められるとき」「軽微な懲戒事由又は服務規律違反を繰り返し,改悛の情が見られず改善の見込みがないと認められるとき」のいずれにも該当していたと認めました。
そして、本件解雇について、社会通念上も相当であったとして、有効であると判断しました。
重要な事実として、当該労働者については、解雇に至るまでに、課長⇒課長代理⇒一般職という降格の措置が既にとられていたことにも注意が必要です。
原告は、「勤務地や職種の変更等の措置を試みるべきであった」という主張をしていましたが、これに対して裁判所は、次の点を指摘して、勤務地や職種の変更等の措置を試みることなく解雇に至っても解雇権の濫用にはあたらないとしています。
・仕事に誠実に取り組もうとする姿勢や意欲が欠如していたこと
・すでに降格の措置が執られていたこと
・本件解雇の時点で原告の年齢が59歳であったこと