協調性の欠如や職歴の不実記載等を理由として行われた本採用拒否が有効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・平成31年1月11日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇有効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・本採用拒否
 ・勤務態度不良・協調性欠如、経歴詐称

事案の概要と判示内容

本件は、認証保育園及び発達支援施設を運営する社会福祉法人で、発達支援事業部の部長となるべき者として採用された労働者に対して行われた本採用の効力が争われた事案です。

試用期間は3ヶ月と定められていました。

問題とされた労働者の行為等

本採用拒否の理由として問題とされた労働者の行為のうち、裁判所は次ような事実を認定しました。

勤務態度等

・入職後、1ヶ月ほどの間に、重要会議にしばしば欠席した。

・実際には権限がないのに、施設長に対して適格性がないと判断するなどと伝えたり、被告本部内にあって不用意に施設長の降格について言及するなどした。

・本人に対する面談や事実確認等を経ずに、部下に対して、衆人の目のある中批判し、パソコンの自費による返還を命じた。また、査定面談を拒否し、さらに降格予定と読めるメールを他者が閲覧出来る状態の中送信するなどして面目を失わせた。その高圧的言動により、当該部下の離職の一因を作った。

・他の部下に対しても、威圧的攻撃的態度が原因で内部及び外部ホットラインによる相談を招く事態を生じさせた。

・別の他の職員との関係でも、対応を非難するメールを施設職員が読める形で送信するなどして面目を失わせ、当該職員や施設長からもその威圧的手法についてクレームを生じさせた。

経歴書の記載

・採用前に原告が提出した履歴書には、6年間にわたり他の社会福祉法人においてサイエンス教室を継続している旨記載されており、被告は経歴において重視していたが、実際には1年間において、4回ほど科学実験の先生として関与していたに過ぎなかった。

・被告が注目していた他社でのコンサルタントとしての稼働についても、職務経歴書の記載から推知されるほどの活躍は認められなかった他、そもそも稼働期間自体が、記載とは異なり約5か月とわずかであった。

その他

・内部及び外部ホットラインによる相談を受けて行われた事実確認の面談の際に、被告が保育所の新規開設に関してリベートを取得するなどの不正を行っているなどと述べた他、不正な補助金使用があったなどとして記者会見を行い、さらに、団体交渉の場で、被告が原告の自宅パソコンと携帯電話に不正アクセスを行ったなどと発言した。しかし、これらはいずれも事実とは認められなかった。

裁判所の評価・判断

そして、このような労働者の行為について、裁判所は、

・原告の業務運営の手法は、少なくとも施設長らとの円滑な意思疎通が重要となる被告の発達支援事業部部長としては、高圧的・威圧的で協調性を欠き、適合的でなかった

・原告は、事実確認の面談及び、記者会見、団体交渉の場で、事実に沿わない発言をして被告との信頼関係を損なう言動に及んだものといえる。

として、他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動があったと認めました。

また、経歴書の記載についても、事実に著しく反する不適切な記載があったとしました。

そして、これらに照らすと、本採用拒否には、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的合理的理由があり、社会通念上相当と認められるとして、解雇(本採用拒否)有効と結論づけたのです。

原告は、仮に原告の言動に問題があったとしても、是正可能で本採用拒否の理由とはならないと主張していましたが、この点についても、裁判所は、原告が、その履歴に鑑み、高いマネジメント能力を買われて、被告としては好待遇の下、即戦力として中途採用された者であったことに照らせば、改善指導を当然の前提とすることも相当ではないとしています。

労働者の勤務態度等に問題が見られる場合でも、解雇は最終手段であって、是正の機会が与えられる必要があります。とはいえ、採用の経緯や待遇等によって、求められる是正の機会の程度や内容も変わりうるということが言えます。

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