職務怠慢やセクハラ・パワハラ等を理由としてなされた解雇が無効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和元年12月17日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由の分類
 ・普通解雇
 ・勤務態度不良・協調性欠如/セクハラ・パワハラ

非違行為の認定と注意指導

ある労働者の問題行動について、他の労働者から訴えがあったものの、本人がその事実を否定しているとき、会社としては、どのように事実を認定すべきか頭を悩ませることになります。

まずは客観的な裏付けがあるのかを考えていくのが基本にはなりますが、行為の内容によっては客観的な裏付けがなくともおかしくないことも多くあり、何が真実かを見極めるのは困難を極めます。

他の労働者から訴えがなされた経緯や当事者間の関係性も考慮した上で、一方的な決めつけとならないような認定や注意指導のあり方を考える必要があります。

ここでは、営業部長の地位にあった労働者に対して、職務怠慢やセクハラ・パワハラ等を理由としてなされた解雇の効力が争われた事案について見ていきます。

事案の概要

本件で解雇の対象となったのは、不動産の売買、仲介などを行う会社で営業部長として勤務していた労働者(以下、「原告」)です。

原告は、職務怠慢やパワーハラスメント(高圧的な態度や暴言)、セクハラなどを理由に解雇されましたが、裁判所の認定によると解雇に至るまでには以下の経緯がありました。

・原告の部下であったE次長が独立したい旨の意向を表明し、その理由として原告の下で働くことへの不満を述べた。

・そこで、会社代表者は、原告以外の従業員に対し原告に対する不平不満などについて事情聴取を行い、従業員との間で、これまでのことについて原告に謝罪してもらった上でまた一緒に働くという方針で了解を得た。

・会社としては、「原告が反省して謝罪した上で非違行為を改めると誓約するのであれば処分は行わないが、原告が応じなければ会社に残すことはできない」という方針を決定した上で、原告に従業員の不平不満としての原告の非違行為の内容を伝え、他の従業員に謝罪することを求めた。

・原告が、指摘された非違行為を否定し謝罪を拒否したことから、解雇に至った。

裁判所の判断

非違行為の存在について

裁判所は、会社が主張した非違行為のうち大半は、これを認めませんでした。その認定にあたって、裁判所は次の点を指摘しています。

・E次長は、原告を部長とする営業部からの独立を希望していた者であるし、原告との間で業務の方法等において対立していた可能性があるから、E次長の話の通りの事実を直ちに認定することはできないこと。

・E次長らの話の信用性を肯定すべき事情や裏付けとなる客観的証拠がないこと。

・代表者はE次長らに加え、他の従業員からも事情聴取をしたと述べるが、その事情聴取の記録やメモ類等の提出もなく、従業員らの具体的・客観的な供述内容が判然としないこと。

・代表者らは、原告からの言い分を聴取する前に、既に他の従業員らに対して原告に謝罪させて事態を収束させる方針を持つに至っていたから、従業員らに対する事情聴取の態様が、原告の非違行為の存在を肯定するという一定の方向性を持ったものであった可能性や、従業員らが代表者らの考えに迎合する内容の話をした可能性を否定できないこと。

この裁判所の指摘からは、会社がこのような場合に事実を認定するにあたってとるべき態度について一定の教訓が読み取れると言えるでしょう。対立関係にある当事者の話による場合にはその信用性について慎重な検討が必要となりますし、一方的な決めつけを前提にした聴取とならないように注意する必要があります。

結局、裁判所が認定したのは、客観的な証拠があったり、原告自身がこれを認めていた次のような事実にとどまりました。

・勤務時間中またはその前後に、頻繁に電話で他の従業員等と業務に関わりのない会話(競馬に関する雑談等)をしていたこと

・勤務時間中に馬券を購入していたこと

解雇の客観的合理的理由、社会的相当性について

私用電話について

裁判所は、原告による私用電話について、非違行為にあたるとしながらも、次の点を指摘しました。

・証拠上認められる私用電話の時間が最長のもので439秒、最短のもので61秒であったこと。

・原告の上司も原告の電話等の状況を認識できたと考えられるところ、原告が指導ないし注意を受けたという事情がないこと。

・原告の私用電話により業務に具体的な支障が生じたとは認められないこと。

・被告会社が、解雇にかかわる紛争が生じるまで特段問題視していなかったこと。

また、業務時間中に馬券を購入していた行為についても、非違行為にあたるとしながらも、次の点を指摘しました。

・(被告会社が主張しているような)半強制的に部下を馬券購入に参加させていたといった悪質な態様ではなかったこと。

・被告会社から指導ないし注意を受けた事情がないこと。

・業務に具体的な支障が生じたとは認められないこと。

・被告会社が、解雇にかかわる紛争が生じるまで特段問題視していなかったこと。

そして、以上に加えて次の点を指摘した上で、本件解雇は、客観的合理的を欠き、社会通念上相当であったとは認められないから無効と結論付けました。

・原告がこれまでに懲戒処分を受けた事実がないこと

・本件解雇前に被告会社が原告に対してした注意または指導の内容は、原告から直接に言い分を聴取する前に、原告の非違行為の存在を前提として、原告に謝罪をさせて事態を収束させるという方針を立てるなど、使用者として適切なものであったとは言えないこと

・原告の執務態度に改善すべき点があったとしても、適切な指導を行っても改善がおよそ期待できない状況に陥っていたとはいえないこと。

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