基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年6月6日
・大阪地裁
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由
・整理解雇
・経営上の必要性による解雇
※普通解雇も主張されているが、省略
人員削減と解雇
労働者側の事情ではなく、もっぱら会社側の事情で行われる整理解雇は、その有効性について厳しく判断されます。
①人員整理の必要性があること
②解雇を回避するための努力を尽くしていること
③誰をその対象とするのかのが、客観的合理的な基準によって選定されていること
④労働者に対して事前に説明をし、納得を得るように誠実な協議を行うこと
が必要となりますが、これらが具体的にどのように判定されるのかについて見ていきます。
ここでとりあげるのは、動物病院で動物看護師として働く労働者らに対して、人員削減の必要性があることを理由に行われた解雇の効力が争われた事例です。
なお、この事案では労働者側の問題を理由とした普通解雇も併せて行われていますが、この点は省略して、整理解雇の点のみ紹介します。
人員削減の必要性
本事案では、動物病院が、解雇日に近い日に、ホームページ上で動物看護士、薬剤師及び事務職の募集を行っていたという事情がありました。そのため、原告からは人員削減の必要性はそもそもなかったという主張がされました。
しかし、裁判所は、以下の点を理由に、経営を健全化、合理化するために、人員を削減する必要性はあったとしました。
・3年間にわたり損失(赤字)を計上していたこと
・本件動物病院における利益に対する人件費の割合が高く、損失計上の主な原因は高額な人件費にあるということができること
・一方で、本件動物病院の売上げ金額が減少を続けている状況にあること
解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性
裁判所は、原告ら3名のうち1名(X2)について、「被告は、本件動物病院の経営状況に照らし、賃金の減額が避けられない中でも、一定の合理性を有する契約内容を提示することで解雇を回避する努力を行っているといえる」としながらも、以下の点を指摘して、「解雇回避努力が十分に尽くされたといえず、解雇手続上も相当とは言えない」としています。
・具体的な賃金額や職務内容を提示したのは、解雇通知の5日前であったこと
・提示の際、労働条件の変更に応じるか、さもなければ解雇するとの二者択一的な提示をした上で、わずか5日で回答するように求めたこと
・原告X2が加入した労働組合が団体交渉を行ったが、被告は、原告X2が、賃金減額や職務内容の変更を了承できないとの意向であると理解しながら、回答期限を延ばすことなく解雇予告を行ったこと
・労働契約法の合意原則(1条、3条1項、4条1項)、労働者の従属性、労使間の情報収集能力、交渉力の格差に鑑みれば、十分な説明や交渉を経ることのないまま、解雇を行ったものといえること
また、他の2名の原告についても、新たな労働条件の提示を行ったが、返答を聞くことのないまま提示から15日後に解雇を行っていることから「解雇回避努力がなされているとはいえない」としました。
以上により、本件整理解雇は無効であると判断されています。