営業社員の虚偽報告・不当請求等を理由とする懲戒解雇が「重きに失する」として無効と判断された例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和元年12月12日
 ・大阪地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由の分類
 ・懲戒解雇
 ・虚偽報告・不当請求

不当請求と解雇

解雇の事由として虚偽報告や金銭の不当請求がある場合、一般的にいえば、金銭が絡むことから労使間の基本的な信頼関係に影響を及ぼすものとして重大な評価を受けると言えます。

もっとも、こうした問題が起こるケースでは、往々にして社内のルールがそれほど明確でなかったり、杜撰であったりすることも多く、果たして「不当な請求」といえるのかという事実認定や評価を巡って大きな争いになります。

ここでは、営業社員に対して、営業先を訪問していないのに旅費等を請求したことなどを理由として行われた懲戒解雇の効力が争われた事例について見てみます。

事案の概要

本件で、懲戒解雇の対象となったのは、医薬品などの販売を行う会社で、営業職として勤務していた労働者です。当該労働者(原告)は、栄養補助食品や化粧品などの販売を行う業務に従事していましたが、「営業先を訪れていないのに旅費などを請求していたこと」などを理由として、懲戒解雇されました。

これに対して、原告は「実際に当営業先を訪問しているから懲戒解雇事由はない」などとして争いました。

裁判所の判断

裁判所は、被告会社が「原告は営業先を訪れなかった」などと主張した66項目の懲戒解雇事由のうち16項目については、原告が営業先を訪れていなかったものと認め、この点において「会社所定の報告等を故意に怠り、またはこれを詐った者」「旅費その他の金品の受領に関し、虚偽の申告をして不当にその支払いを受けた者」という懲戒解雇事由に該当すると認めました。

しかし、裁判所は、次の点を指摘して、懲戒解雇にまで至るのは重きに失し、社会通念上相当であるとは認められないとしました。

・原告が営業先を訪れなかったと認められたのは66項目のうち16項目にとどまること

・16項目のうちほとんどは、同じ日に当該営業先付近には訪れたり、他の営業先を訪れていること

・原告の担当営業先が500以上あることからすると、不訪問回数が多いとは言えないこと

・これにより原告が得た旅費等が多額とは認められないこと

・営業先を訪れていないことについての注意を受けたことはないこと

・これまでに同様の行為によって処分を受けたこともないこと

なお、懲戒解雇に至る過程では、原告に対して諭旨退職の提案がなされましたが、この点についても、裁判所は、「諭旨退職処分も重いと言わざるを得ない」として、このような提案がされたことも懲戒解雇の効力の判断には影響を及ぼさないとしました。

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