中退共による退職金
中小企業で働いていらっしゃる方の場合、会社が勤労者退職金共済機構の退職金共済に加入しているという場合も多いかと思います。
退職金共済契約は、被共済者ごとに掛金月額が決まっています。
そして、被共済者が退職した時にはその方に、被共済者が死亡したときには、その遺族に退職金が支給されることになります。
また、この退職金の支給を受ける権利は、第三者に譲渡したり、担保に供したり、差し押さえることが出来ないとされています(ただし、税金を滞納した場合の差押え等は例外として認められています)。
返還合意に基づく返還請求
この退職金共済契約による退職金について、こんな事例があります。
ある会社が、退職金規程で、退職金共済契約による退職金よりも少ない金額を退職金として定めていました。
そこで、この会社は、退職者に、機構から支払われる退職金のうち会社の退職金規定に基づく金額を上回る部分について会社に返還するとの約束をさせたのです。
ところが、その約束が守られていないとして、会社は退職者に対して退職金の一部返還を求めて裁判を起こしました。
この裁判例(東京地方裁判所平成25年8月30日判決)を紹介したいと思います。
このケースでは、まず、そもそも返還の合意があったかどうかが争われましたが、裁判所は、返還合意は「あった」と認定しました。
返還合意は有効か?
しかし、裁判所は、このような合意が有効かについて次のように判断しました。
①
・退職金共済制度では、従業員の福祉を図る観点から、被共済者やその遺族が改めて受益の意思表示をすることなく直接、機構に対して退職金受給権を取得するとされていること
・退職金の支給確保のために、機構は直接被共済者や遺族に対して退職金を支給するものとされ、また退職金受給権の譲渡が原則禁止されていること
に照らすと、被共済者が退職金を受給する権利を保護する法律の規定に反する合意は無効となるというべきである。
②そして、本件合意は、退職金の全額を被共済者へ支給するとした規定や退職金の譲渡を禁止した法律の規定に抵触している。
③したがって、本件合意は無効というべきである。
裁判所は、このように判断して、返還合意はあったものの効力はないとして、会社からの返還請求を認めなかったのです。
退職金共済契約による退職金の趣旨・意味合いを理解する上で参考になる裁判例です。
退職金共済契約による退職金の返還を巡っては、こんなケースもあります。
⇒退職後の競業避止義務違反を理由に、中退共による退職金の返還を請求できるか
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