基本情報
1 判決日と裁判所
・令和2年8月6日
・大阪地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・懲戒解雇
・競業避止義務違反
引き抜き行為と解雇
労働者が退職して新たに事業を立ち上げたり、他の会社に就職する際に、他の社員を引き抜いていく場合があります。
労働者は在職中には使用者の正当な利益を信頼関係を破壊するような不当な態様で侵害してはならない義務(誠実義務)を負っています。そのため、在職中にこうした勧誘行為が行われる場合には、誠実義務違反にならないのかが問題になります。(▼従業員の引き抜き行為が違法となる場合とは )
在職中にこうした引き抜き行為が発覚した場合には、解雇の可否という形で争われることもあります。
ここでは、引き抜き行為を理由として行われた懲戒解雇の効力が問題となったケースについて見ていきます。
事案の概要
本件で引き抜き行為を理由として解雇の対象となったのは、不動産会社において本部長を務めていた労働者1名と、支店の店長を務めていた労働者1名です。
この不動産会社には、7店舗、60名強の従業員がおり、本部長は会社における3番目の地位にありました。
会社は、この2名の労働者について「自らが転職を予定していた同業他社グループのために、多数の部下に対して繰り返し転職の勧誘を行い、また同業他社グループのために営業店舗を探す行為を行った」などとして懲戒解雇したため、その効力が争われました。(裁判では、他にもう1名に対して行われた解雇も争われましたが、この点については省略します)
裁判所の判断
裁判所は、2名が
「本部長及び店長という重要な地位にありながら、合計7名の従業員に対して「引き抜き」のための労働条件の上乗せや300万円もの支度金を提示するなどして、転職の勧誘を繰り返した」
とした上で、これは、単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、就業規則の懲戒解雇事由(会社の命令または許可を受けないで、他の会社・団体等の営利を目的とする業務を行うこと等」)に該当するとしました。
そして、解雇の合理性・相当性については、次の点を指摘して、原告らの行為は「単なる転職の勧誘にとどまらず、社会的相当性を欠く態様で行われたもの」としました。
・勧誘を行った対象が、7つある店舗のうち、1つの店舗の店長及び営業職6名のうちの2名、他の店舗の営業職6名のうち3名であること
・労働条件の上乗せをしたり、300万円の支度金を提示するなどしていること
・店長を務めていた原告が、当該店舗から450メートルしか離れていない同業他社の店舗の店長となっており、勧誘対象となった営業職員もそこで勤務することが想定されていたこと
・店舗探しも在職中に行われていたこと
・7名が転職に至っていた場合には、会社に経営に与える影響は大きかったと容易に推察できること
・他の営業職や事務職にも声をかけていたことがうかがわれること
そして、原告らがまもなく退職を予定していたことも考慮すると、解雇には客観的に合理的な理由があり、社会的に相当なものとして、有効と結論づけました。
