取引先会社の従業員に対するセクハラ行為を理由とする懲戒解雇が有効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・平成31年2月7日
 ・大阪地裁

2 判決結果
 ・解雇有効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・懲戒解雇
 ・セクハラ・パワハラ

取引先関係者に対するセクハラ行為

職場で問題となるセクハラ行為には、社内でのセクハラ行為だけでなく、取引先関係者に対する(からの)セクハラ行為もあります。

男女雇用機会均等法では、事業主は、他社から、自社の労働者の他社の労働者に対するセクシュアルハラスメントについての事実確認や再発防止等の必要な措置の実施に関して必要な協力を求められた場合には、これに応じるよう努めるという努力義務も規定されています(男女雇用機会均等法11条3項)。

ここでは、取引先会社の従業員に対してセクハラ行為を行ったことを理由する懲戒解雇の効力が争われた裁判例について見ていきます。

事案の概要

本件は、運送業を営む会社の社員が、集荷先企業の女性従業員に対して、突然抱きしめ左胸を触るセクハラ行為を行ったとして懲戒解雇された事案です。

当該会社の就業規則では

・セクシュアル・ハラスメントの問題により個人及び会社の名誉を傷つけたとき。
・社員としての体面を汚したとき。
・故意または重大な過失によって会社に損害を与えまたは会社の信用を失墜させたとき。
・その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき。

といった懲戒解雇事由が定められており、これらに該当するとして懲戒解雇が行われました。

これに対して、原告労働者は、「女性の身体には一切触れていない」と主張して懲戒解雇の効力を争いました。

裁判所の判断

(1)被害を申告した女性および原告の供述の信用性について

原告労働者はセクハラ行為の存在そのものを争っていましたので、裁判所の判断の中心は、セクハラ行為(突然抱きしめ左胸を触る行為)があったのかという点になりました。

このようなセクハラ行為ですと客観的な証拠があるわけではないため、被害を申告した女性と原告の供述のいずれを信用するのかという問題になりますが、裁判所は、この点について次のように判断しました。

一般的見地に照らすと、被害を申告した女性が、示談金を詐取する動機に基づいて、勤務先の取引相手に対して、虚偽の診断書を取得した上で、セクハラ行為について虚偽の申告をしたものとは考えがたく、原告に対する個人的な怨恨から虚偽の供述を行う動機も見当たらない

供述内容をみても、抱き締められた、胸を触られたという行為の存在自体は具体的に供述されている

加えて、被害を申告した女性が鬱状態であるとの診断を受け、出勤できていないこと等にも照らすと、その供述内容は、反対尋問を経ていないとはいえ、十分に信用することができる。

(女性の身体に一切触れていないとする)原告の供述は、複数回変遷している上、そのことについて合理的な説明がなされているとはいえない。むしろ、行為の重要部分を否認しつつ、自らの供述内容を女性の供述内容に近づけることによって、自らの供述の信用性を高めようと試みたと考えることができる。

加えて、原告において、女性と300万円を上限として示談を希望する旨の書面を作成したことが原告の供述内容と客観的には整合しないことにも照らすと、原告の供述内容に信用性はない。

本件事案における判断ではありますが、供述の信用性について裁判所がどのような視点から判断するのかを知って頂く上で参考になるかと思います。

(2)懲戒解雇の効力

裁判所は、上述のようにセクハラ行為を認定した上で、女性に対して、その意に反して身体を抱きしめ左胸を触る行為は就業規則上の懲戒事由に該当するし、行為の性質や内容に照らすと、本件懲戒解雇が不当に重いものとはいえないとして、本件懲戒解雇は有効であると結論付けました。

取引先関係者を巻きこんだセクハラ事案になると、社内におけるセクハラ行為以上に事実確認や認定の困難さは増しますが、上で紹介したような男女雇用機会均等法における努力義務(他社から必要な協力を求められた場合に、これに応じるよう努める義務)も活用しながら、しっかりした事実確認をした上での対処が必要となります。

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