基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年3月27日
・東京地裁立川支部
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由
・懲戒解雇
・虚偽報告・不当請求
不正受給と懲戒解雇
懲戒解雇は、罰として行われる解雇で、懲戒処分の中でもっとも重い処分です。
懲戒解雇事由の規定が広く解釈されると、どのような行為が「罰」の対象となるのかという予測可能性が失われてしまいます。そのため、懲戒解雇事由に該当するかどうかは、厳密に検討されなければなりません。
ここでは、通勤手当の不正受給を理由とする懲戒解雇の効力が争われた事例についてみていきます。
事案の概要
本件で懲戒解雇の効力を争った原告は大学教授です。
原告は、自動車手当を不正に受給したとして大学から懲戒解雇されました。
大学側が主張した原告の「不正受給」の内容は次のとおりです。
・原告は、自動車通勤手当の制度が設けられた際、被告に対して届け出ている肩書住所地【D宅】からキャンパスまでの区間【Dルート】で自動車通勤する旨を届け出た。
・しかし、その後、原告の自宅はD宅ではなく、 配偶者の居住地 【E宅】となり、E宅からキャンパスまでの区間【Eルート】で自動車通勤していた。
・その結果、原告は、約10年間にわたりEルートで自動車通勤していたにもかかわらず、Dルートによる自動車通勤手当を不正に受給し、その総額は399万6500円に上る。
これらが、就業規則に定められた懲戒解雇事由である「刑事犯罪にあたる行為をしたとき」「その他前各号に準ずる不都合な行為のあったとき」に該当するとして懲戒解雇が行われたのです。
裁判所の判断
これに対して、裁判所は以下の点を指摘し、原告の行為が懲戒解雇事由に該当するとは言えないとしました。
・被告は、通勤届等に記載された住所地を「自宅」として運用してきた。また、通勤届等に記載する住所地は、原則として住民票に記載された住所地であるとして解釈されてきた。
・したがって、被告においては「自宅」と通勤届等に記載された住所地、住民票に記載された住所地は同義のものとして解釈運用されてきた。
・このような「自宅」の意義を踏まえると、原告の住民票記載の住所地は現在に至るまでD宅であり、通勤届等にもその住所地が記載されていたことから、原告の自宅はD宅であったといえる。
・原告にはD宅での生活実態があること、週全体で見ると原告はE宅を経由してD宅とBキャンパスとの間を通勤しているとも言えること、授業以外の業務のためにD宅からBキャンパスまで出勤することもあったことを併せて考慮すると、Dルートによる通勤手当を受給したことが明らかに不当ということはできない。
さらに、裁判所は、次の点を指摘して、仮に、原告の自宅をE宅と考えるべきという被告の主張を前提としても、原告には故意過失が認められないとして、懲戒解雇事由に該当することを否定しました。
・原告は、妻子がE宅へ転居したことを被告に申告していたこと
・団体交渉において通勤手当の問題を取り上げ、原告の生活圏がE宅に広がったことを隠そうともしていないこと
以上より、本件懲戒解雇は無効であると判断されました。