労働者の採用に至る過程で、一般に内々定と呼ばれる段階があります。
特に新卒採用の場合には、就活ルールにおける内定解禁日との関係から、会社が、正式な内定を出す前に採用を望む学生に対して将来内定を出す意思を表明することが行われており、この段階を「内々定」と呼ぶのです。
内々定が得られれば、普通は、その後正式な内定通知が出され、内定段階に入っていくことになります。しかし、時に会社がいったん出した内々定を取り消すというケースがあります。
このような内々定の取り消しが許されるのかについて見ていきたいと思います。
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内々定と内定の違い
正式な内定通知が出されると、その時点で労働契約は成立していることになります(ただし、始期付解約権留保付の労働契約)。そのため、内定の取り消しは留保された解約権の行使(解雇)の問題となり、厳格な規制を受けます(詳しくはこちら
⇒内定取り消しとその理由~内定取り消しは許されるか)
これに対して、内々定の段階では、多くの場合、双方が労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識にまで至っていないと考えられるため、労働契約の成立まで認めるのは困難です。
もっとも、内定にまで至っているのか、内々定の段階なのかというのも、結局は程度問題ということになりますので、実際の事例の中では、「内定が成立していたのかどうか」ということが一つの大きな問題になります。
ここでは「内定」という言葉が使われたのか「内々定」という言葉が使われたのかということ自体が重要なわけでありません。どのような呼ばれ方をしていたにせよ、実質的に雇用契約が結ばれるまでに至っていたのかどうかという観点から判断がされます。
内々定の取り消し
また、仮に内定に至っていないという場合でも、この会社に入社出来るという期待を不当に侵害したという場合には、これによって被った損害について賠償すべきであるとの判断がされる場合があります。
例えば、内定は成立していない(つまり内々定の段階に過ぎない)と判断されながらも、雇用契約を締結できるという期待権を不当に侵害したとして会社に対して損害賠償請求を命じた裁判例(平成22年6月2日福岡地裁判決)を見てみます。
内定通知授与の二日前の取り消し
この事案では、不動産売買等の会社から「採用内々定」の連絡をもらった大学生が内定通知の授与の予定日の二日前に「採用内々定取消」の通知を受けたという事案です。
裁判所は、まず
- 内々定後に具体的労働条件の提示,確認や入社に向けた手続等は行われていなかったこと
- 会社が提出を求めた入社承諾書の内容は、入社を誓約したり,企業側の解約権留保を認めるものではなかったこと
- 会社の人事事務担当者が,労働契約を締結する権限がなかったこと
- 当時の就職活動の状況として、内々定を受けながら就職活動を継続している新卒者も少なくなかったこと
から、会社と原告との間で雇用契約が締結されているとは言えないと判断しました。
内々定の取り消しと損害賠償
その上で、裁判所は
- 会社は経営状態や経営環境の悪化にもかかわらず,新卒者採用をするという一貫した態度をとっていたことから、原告が被告会社に就労出来ることを強く期待したのはむしろ当然であったこと
- にもかかわらず、取消通知の内容は極めて簡単な内容のみを記載したもので、さらに、原告の求めに対しても取消の具体的理由の説明もされず、被告会社は、原告に対して誠実な態度で対応したとは到底いい難いこと
- そもそも、会社が、経営状態や経営環境の悪化があってもなお新卒者を採用するという方針を突然変更した理由は明らかではなく、単に経済状況がさらに悪化するという一般的危惧感のみから,原告に対する現実的な影響を十分考慮することなく,内々定取消しを行ったものと評価せざるを得ないこと
を指摘して、内々定取消は原告の期待利益を侵害するものとして違法であるから会社は賠償義務を負うとの判断をしました。
裁判所も指摘している取消の際に会社がとった不誠実な対応が、本件をここまでもつれさせてしまった一番の原因ではないかと感じられます。たとえ内定が成立していなくても、相手に与える不利益を十分考慮した誠意ある対応をとる必要があることを改めて明らかにしている裁判例といえます。
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