基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年5月23日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇無効
3 解雇の種類と解雇理由
・整理解雇
・経営上の必要性による解雇
整理解雇の判断方法
労働者に帰責性がなく、もっぱら会社の経営上の都合で行われる整理解雇は、その有効性が厳しく判断されます。
労働者が属する部門の廃止を理由として行われる解雇も、整理解雇の一つです。
ここでとりあげるのは、学部(国際コミュニケーション学部)の廃止を理由として行われた大学教員らに対する解雇の効力が争われた事例ですが、裁判所は、解雇の効力を判断する枠組みとして、次のように述べました。
原告らの所属学部や職種が限定されていたか否かに関わらず、原告らの帰責性のない経営上の理由による解雇である以上、解雇の効力は、
①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③被解雇者選定の合理性
④解雇手続きの相当性
に加え、本件においては
⑤原告らの再就職の便宜を図るための措置などを含む諸般の事情
をも総合考慮して、合理的理由及び社会通念上の相当性があるかを判断すべきである。
①~④は、整理解雇の4要件(要素)としてよく知られているものですが、本件ではこれに加えて⑤を明示している点が特徴的といえます。
では、これらの要件が判決で具体的にどのように判断されているのかについて見ていきます。
人員削減の必要性
裁判所は、「国際コミュニケーション学部を廃止する経営判断自体は不合理とはいえない」としながらも、以下の点を指摘して、「人員削減の必要性が高度であったとはいえない」としています。
・被告の資産、収支及びキャッシュフローは相当に良好であったから、原告らを解雇しなければ被告が経営危機に陥るといった事態は想定し難い状況であったこと
・原告らは、(国際コミュニケーション学部の廃止と同時に新設された)人文学部の一般教養科目及び専門科目の相当部分を担当可能であったこと
解雇回避努力
大学側は、解雇を回避するための努力として「希望退職の募集」を行ったと主張していました。
しかし、これに対して裁判所は、「希望退職に応募しない場合は解雇することを前提に、応募した場合は退職金に退職時の本俸月額12ヶ月分の加算金を支給する旨提案しただけで、十分な解雇回避努力とはいえない」としています。
大学側からは、その他の解雇回避努力として「他大学や他学部からのオファーがあれば速やかに連絡する旨の伝達を行ったこと」や「被告の運営する中学校、高等学校に対して採用検討の依頼をしたこと」「人文学部以外の学部における教員の公募状況の通知をしたこと」も主張されていました。
しかし、裁判所は、「他大学等に原告らの採用の可否を問い合わせたに過ぎない」「求人ウエブサイトのURLを通知したに過ぎない」として、これらは解雇の有効性を基礎づける事情として十分ではないとしました。
さらに、本件では、解雇に代わる措置として、「専任事務職員としての雇用の提案」が行われていました。
しかし、この点についても裁判所は、本件雇用契約においては、地位を大学の教員に限定する旨の黙示の合意があったと言えるから、解雇回避努力としては不十分と判断しています。
結論として、裁判所は「被告は、原告らが解雇となることを認識しながら、それを明らかにせず、意図的に解雇回避の機会を失わせ、大学から排除しようとした疑いを払拭できない」とまで述べた上で、「解雇回避努力を尽くしたとはいえない」との判断を行っています。
解雇手続の相当性
解雇手続きの相当性についても、裁判所は次の点を指摘して「被告は、原告らに対する説明や原告らとの協議を真摯に行わなかった」と評価しています。
・原告に対する説明の機会に、原告らに対して解雇の必要性や原告らを配置転換出来ない理由等につき十分な説明をしていない。
・被告は、原告らが結成した労働組合が団体交渉を申し入れた際にもこれを拒否した。
裁判所は、以上を総合考慮の上で、本件解雇は解雇権を濫用したものとして「無効」と結論付けています。