営業職社員に対する事業所への立入禁止命令違反、誹謗中傷、パソコンの不返還などを理由とする普通解雇および懲戒解雇が無効と判断された事例

基本情報

判決日令和2年10月1日
裁判所大阪地裁
判決結果解雇無効
解雇の種類普通解雇/懲戒解雇
解雇理由勤務態度不良・協調性欠如/業務命令違反/誹謗中傷/着服・横領

事案の概要

被告は、靴・鞄・皮革製品の製造・販売などを営む株式会社です。
原告は被告に入社以来、営業職に従事していました。

平成29年8月、被告の創業者で全株式を保有していたA1氏の代理人弁護士は、代表取締役であった配偶者B1氏に対し、原告とB1が不貞関係にあると指摘をした上で、「B1氏が代表取締役を辞任し原告が退職すれば、以後、生活費として月額45万円を支払う」と告げました。

B1氏は生活費確保のため、この条件を受け入れざるを得ないと考え、原告に対し、実際には退職の意思がないにもかかわらず、退職届を作成するよう依頼しました。

原告はB1氏の依頼に応じて「退職届」を提出しましたが、翌日には、退職の意思がないことを明示するため「復職願」も提出しました。

その後、B1氏は代表取締役を解任され、代わってC1氏(B1氏の実弟)が就任しました。

被告は、その後、原告に対して就業規則上の「組織不適応」や「その他やむを得ない事由」を理由に普通解雇を通知しました。

さらに、その後、暴行・脅迫、業務命令違反、会社物品・金銭の着服などを理由に懲戒解雇の意思表示も行いました。

裁判所の判断

裁判所は、退職届について、「原告の真意に基づくものではなく、そのことは当時被告の代表取締役であったB1も知っていた」として、その効力を否定しました。そのうえで、解雇の有効性について次のように判断しました。

普通解雇の効力

事務所への立ち入り

被告は、原告が、事務所への立入禁止命令に反して、複数回事務所に立ち入ったことを普通解雇事由として主張しました。

しかし、裁判所は、事務所への立入禁止は労働契約終了を前提とするものであることや、短時間の立ち入りの態様に照らすと、解雇を正当化するほどの命令違反とは言えないとしました。

誹謗中傷メールの送信

裁判所は、原告が、代表取締役C1に関して

・横領行為や詐欺まがい行為を行った旨のメール
・「アホ」「サイコパス」であるかのように指摘するメール
・C1を告訴したとのメール
・被告の業務の問題について労基署や税務署に取り上げさせる旨のメール

などを送信した事実を認めました。

しかし、裁判所は、横領に関する指摘については、C1に対する賞与の支給や貸付けは、被告の適正な意思決定を経たものではない不正行為であるとの疑いを差し挟む余地があるから、根拠のない指摘をしたものではなく、メールの内容自体が職場規律を著しく乱すものとは言えない、としました。

その他のメールについても、不穏当な内容ではあるものの、C1らの役員としての資質を問う趣旨とも理解でき、解雇が行われるまでの事実経過に照らすと重大な職場規律違反があったとまでは言えないとしました。

不貞行為

被告が主張する原告とB1との不貞関係については、不貞関係があった事実自体を認めませんでした。

普通解雇は無効

以上により、裁判所は普通解雇を無効と判断しました。

懲戒解雇の効力

被告は、原告が、複数回パソコンの返還を求められたにも関わらず、これに応じなかったことを懲戒解雇事由の一つとして主張していました。

しかし、裁判所は、原告は退職していないことを示す目的で返還を拒んだと考えられること、また退職届提出の経緯を踏まえると、返還拒否が企業秩序を著しく乱すものとはいえないと判断しました。

そして、懲戒解雇についても無効と結論付けました。

この事案は、親族間の対立という特殊な背景事情を含んでいましたが、裁判所はその経過を丁寧に踏まえたうえで、職場規律に与える実際上の影響などを検討し、解雇を無効と判断しました。

形式的に軽微な問題を捉えて解雇に踏み切ることは許されない、という点を改めて示した事例といえます。

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