担当業務を行わず、虚偽の進捗報告をしたことが「職務怠慢」にあたる等としてなされた解雇が有効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・平成31年3月15日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇有効

3 解雇の種類と解雇理由
 ・普通解雇
 ・虚偽報告・不当請求

職務怠慢と解雇

職務怠慢には様々な類型がありますが、会社に対して積極的に虚偽の報告を行うような場合、意図的な行為であるため、一般的に厳しい評価がされるといえます。

ここでは、虚偽の進捗報告をしたことなどが「職務怠慢」にあたるなどとして行われた解雇の効力が争われた例についてみていきます。

事案の概要

原告は、保育園などの企画や運営、運営受託を行う会社で、保育施設の開設営業や開園準備のサポートなどを行う開発部に所属していた労働者です。

裁判所の認定によると、解雇に至る事情として次のような経緯がありました。

原告は、新規開園のための借入業務のうち、借入の申請を行う業務を担当していました。

ところが、ある開園予定の保育園について、原告は自治体への意見書発行依頼や、借入先への借入申込書の提出といった、借入申請に必要な手続きを行っていませんでした。

担当部署では、8ヶ月間にわたり、合計12回の定例会議を開催し、新規開園業務の進捗確認が行われていました。

また、被告会社は、担当職員に対し、実施した業務についての報告のほか、外部の関係機関とのメールのやりとりを共有するように平素から指導しており、当該開園予定の保育園についても、進捗確認のために柔軟に定例会議を開催し、外部とのメールの共有を行うよう指導していました。

しかし、原告は、借入業務の進行が遅れていることや、進行できない事情について、報告・相談等を一切行っていませんでした。

開園予定の3ヶ月前になって必要な手続が一切進められていないことが発覚し、他の金融機関からの借入に奔走すること等が必要となりました。

案件が進行していない疑いが生じて以降、原告に対して事実確認のヒアリングが行われましたが、原告は事実とは異なる説明に終始しました。

裁判所の判断

(1)客観的合理的理由について

裁判所は、まず就業規則上の解雇事由に該当するかという点について次のように述べ、解雇の客観的合理的理由があるとしました。

・原告は、担当業務である受理票取得に関し、自治体への意見書発行申請の手続すら行っておらず、他の機関に対する問い合わせも行っていないと認められ、就業規則上の解雇事由である「職務怠慢」に該当する。

・定例会議における進捗に問題がない旨の報告や、事実確認のヒアリングにおける説明内容は虚偽の報告であったと認められ、「職務怠慢」「上長の指示を守れない」に該当する。

・上長からの状況報告の指示に対して報告を怠り職務が進んでいないことを隠す報告を繰り返し行っている行為態様からすれば、「早期に改善の見込みがない」と言える。また、誠実に職務にあたることそのものができていないから「職員としての適格性がない」にも該当する。

(2)社会的相当性について

次に、裁判所は、解雇することの社会的相当性があるかという点について、次のように述べ、解雇は有効であると判断しました。

・原告の行為によって、保育園の開園が不可能になりうる重大な支障を生じさせ、他の職員に大きな混乱を生じさせた。

・原告の職務懈怠及び虚偽報告の態様は悪質であり、かつ、生じさせた結果は重大である。

・当該案件が進行していないという強い疑いが生じた後のヒアリングにおいても虚偽の説明を継続し、関係機関からの回答による調査結果が出揃った後も虚偽の報告に終始した原告の対応は、上長その他の職員との適切な報告や連絡を前提とした信頼関係のもとで業務を遂行すべき被告職員としての地位に照らし大きな問題であって、業務上の信頼性を失わせるものであるから、解雇を選択するのもやむを得ない。

・被告は、原告に対して複数回にわたってヒアリングを実施し、その聴取内容に基づいて対外的調査を実施するなどの調査を実施の上、経営会議において原告の言い分を聞く機会を設けており、本件解雇の判断を慎重に行った。

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