基本情報
判決日 | 令和2年11月24日 |
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裁判所 | 名古屋地裁 |
判決結果 | 解雇有効 |
解雇の種類 | 普通解雇 |
解雇理由 | 業務命令違反/成績不良・能力不足 |
事案の概要
本件は、グループ会社9社の共同出資によって設立された研究所(被告会社)に研究系所員として勤務していた原告が、被告会社から受けた普通解雇の有効性を争った事案です。
原告は平成4年に被告会社に採用され、その後、人間関係のトラブルを理由に数年ごとに異動を繰り返しながら、研究開発、研究管理、企画業務などに従事してきました。
平成28年3月頃、原告は、上司から指示された研究業務である「情報・数理科学に関する国内外研究の諸動向調査」に対し、会社によるハラスメントや不公正な扱いが背景にある主張として異議を申し立て、業務への従事を拒否しました。
これに対し、被告会社は「原告の主張するコンプライアンス違反等はない」と説明し、業務指示に従うよう求めましたが、原告は応じませんでした。
被告会社は、こうした業務命令違反などを理由として、同年7月に戒告処分を行いました。
しかし、原告はその後も新たに指示された業務(報告書調査)を行わず、代わりに被告会社に対する不満や批判をまとめた「職場環境改善活動」と題するメモを提出するようになりました。さらに、行き先を表示せずに離席して図書室で過ごすことを繰り返し、産業医との面談を求められても拒否しました。
被告会社は、指示した業務に従わないこと等を理由に、同年11月に3日間の出勤停止処分を行いました。
しかし原告は、出勤停止処分後も指示された業務を拒み続け、「職場環境改善活動」と称する独自の活動を継続しました。
被告会社は繰り返し業務指示に従うよう指導を行い、翌年3月には再度報告書調査の期限を設定して警告書を送付しましたが、原告は態度に変化はありませんでした。
最終的に、被告会社は、原告の態度が改善せず、配置転換による改善も期待できないとして、平成29年3月30日付で原告を普通解雇しました。
これに対し原告は、「解雇権の濫用であり無効である」と主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮すると、「解雇時の部署で正常に業務に従事することは期待でできず、また、配置転換による改善も期待できない」として、「研究所員としての能力を著しく欠くとき」などの解雇事由に該当する客観的合理的があり、社会通念上の相当性もあるとしました。
・被告会社による継続的な指導と段階的な処分にも関わらず、原告は、自己の主張に固執して、指示された業務への従事を頑なに拒み続けてきたこと
・原告が人間関係を原因として異動を繰り返してきたこと
その中で、裁判所は、「原告がハラスメント等の通報を行うためであれば、指示された業務を遂行しないことが当然に正当化されるものではない」とも指摘しています。
原告は、「上司らの継続的な就業規則違反、社内規則違反、労働法規違反や倫理違反により不利益な扱いを受け続け、内部通報を見過ごし続けられ、弾圧を受けていたため、総務部長の許可を得て、不満や批判を書き記す行動をしていた」と主張していました。
しかし、裁判所は、「上司の行動が企業倫理や法令に違反していたと認めるに足りる証拠はなく、仮に問題があったとしても、それだけでその上司の下で業務に従事させることが不当とはいえない」としました。
そして、原告が不服等の申し立てには理由があるとは認められず、被告会社は、そのことを原告に説明しており、原告のいう「内部通報を無視した」とはいえないとしました。
さらに、被告会社が産業医との面談を命じたことについても、原告が執拗に不服や批判を繰り返し、指示された業務を頑なに拒否し続けていた状況を考慮すれば、何らかの疾病があることを懸念して面談を求めたものであり、不合理ではなく指揮命令権限の濫用にはあたらないとしました。
以上により、裁判所は本件解雇を有効と結論づけました。
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