大学教授に対する学生への学長批判発言及び虚偽陳述等を理由とする懲戒解雇について「重きに失する」として無効と判断した事例

基本情報

判決日令和2年10月15日
裁判所東京地裁
判決結果解雇無効
解雇の種類懲戒解雇
解雇理由誹謗中傷/虚偽報告・不当請求

事案の概要

(本件は原告が2名いましたが、ここでは懲戒解雇の効力が問題となったX2について取り上げます)

原告X2はA大学文学部の教授の地位にあった労働者で、被告法人はA大学を設置・運営する学校法人です。

被告法人は、原告X2に対し、懲戒解雇を行いました。解雇理由は以下の3点です。

1. 解雇理由①(発言):卒論研修の際、参加した学生28名に対し、「B先生は今回の件で学長に殺されたと思っている」、「Cゼミの4年生と3年生は学長に捨てられた」など、学長である被告Y1の名誉を毀損し、大学への不信感や不安感を与える発言をしたこと。

2. 解雇理由②(虚偽の陳述):その後の事情聴取や聴聞会において、解雇理由①の発言の有無を確認されたのに対し、そのような発言はしていないと虚偽の陳述をしたこと。

3. 解雇理由③(成績評価の変更):他の教員が主査を務める学生の卒業論文の成績評価を、主査の承諾を得ずに変更したこと。

原告X2は、「いずれも懲戒事由に当たらない」「仮に当たるとしても懲戒解雇は重きに失し無効である」と主張しました。

裁判所の判断

懲戒事由該当性

解雇理由①(発言)

裁判所は、 発言は、学長である被告Y1の社会的評価を低下させ、大学の名誉と信頼を傷つける行為であり、教員規則に定める懲戒事由(教員としてふさわしくない行為を行い、学園の名誉若しくは信用を傷つけたとき等に該当するとしました。

解雇理由②(虚偽の陳述)

 裁判所は、解雇理由②の陳述は、原告X2が発言の事実を認識しながら故意に否定したものであり、教員規則に定める懲戒事由(教員としてふさわしくない行為を行い、学園の名誉若しくは信用を傷つけたとき等に該当するとしました。

解雇理由③成績評価の変更

 裁判所は、解雇理由③の成績評価の変更については、東洋史学専攻において専任教員全員による判定会議で成績評価を行う方法が慣習的に行われており、成績評価の権限を学長から委任されている科目担当教員も、このような決定方法をとることを了解し、かつ、結論としての成績評価を承諾していたと認められるとして、大学の諸規則に違反した行為があるとは認められないとしました。

解雇の相当性

 裁判所は、次の点を指摘して、解雇理由①および②の規律違反は重大であるとまではいえないとしました。

・解雇理由①の発言は、学生に不信感・不安感を与える内容であったが、研修に参加した28名の学生の面前という限定された場面での発言であって、伝播性は低く、被告法人の一般的な信用を毀損するおそれは小さいこと

・解雇理由②の虚偽の陳述は、被告法人が既に発言の録音データを保有していたことから、被告法人の業務に支障をきたすものではないこと。

 そして、原告X2には、過去に懲戒処分を受けたことがないことを考慮すれば、原告X2を解雇とすることは重きに失し、社会的相当性を欠くとしました。

結論

以上により、裁判所は本件懲戒解雇を無効と結論づけました。

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