3度にわたる試用期間延長後になされた本採用拒否について、試用期間延長が無効とされ、普通解雇としても無効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和2年9月28日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由の分類
 ・本採用拒否(普通解雇としても無効)
 ・成績不良・能力不足/勤務態度不良・協調性欠如/業務命令違反

試用期間の延長

試用期間満了時に、本採用すべきかどうか判断がつかず、試用期間の延長が行われることがあります。

労働者からしてみると、直ちに本採用拒否されるよりはマシという側面もありますが、試用期間という不安定な状態が継続する措置でもあります。

そこで、このような試用期間の延長がどのように場合に許されるのかが問題となります。

ここでは、試用期間の延長の効力が争われた事例をとりあげます。

事案の概要

原告は、産業用機械の制作・販売等を行う株式会社である被告と、3ヶ月間の試用期間を含む雇用契約を締結しました。被告は、この試用期間を1ヶ月ごとに3回延長し、合計6ヶ月間としました。その後、被告は原告に対し、本採用を拒否(解雇)する旨の意思表示を行いました。

被告は、本採用拒否の理由として、指示に対して「研修で教わっていない」と述べるなど業務指示あるいは意見に従わないこと、業務に対する知識や理解度、意欲に欠けること、コミュニケーション能力の不足などを挙げました。

これに対し原告は、試用期間の延長は就業規則に延長の定めがなく無効であること、被告が不当な目的で延長を繰り返したことなどを主張しました。さらに、本件解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当ではないため無効であると主張しました。

試用期間延長の効力について

試用期間の延長が許されるための条件

本件では、雇用契約及び被告の就業規則には試用期間の延長に関する明確な規定がありませんでした。

裁判所は、試用期間の延長は労働者を不安定な地位に置くことになるから根拠が必要とし、労働者の同意もその根拠となるとしながらも、そのためには次の条件を満たす必要があるとしました。

・職務能力や適格性について調査を尽くしたが、さらに調査を尽くして適格性等を見極める必要がある場合などのやむを得ない事情があること

調査を尽くす目的で行われること

必要最小限度の期間を設定すること。

そして、これらの条件を満たさない場合には、たとえ労働者の同意があったとしても無効となるとしました。

本件試用期間の延長は無効

 その上で裁判所は、本件で上記の条件を満たしているのかを検討していますが、ここで次のように述べています。

・原告は、社会人経験がない新卒の立場で入社したものであるところ、学生感覚から抜け出せないまま社会人になってしまう事例は内容・程度に差はあっても社会内に相当程度存在する。

・そうすると、原告の就労開始直後から勤務態度等に問題があることを把握していた被告としては、面談を実施するなどして問題点を具体的に指摘した上で、改善されなければ本採用拒否もあり得るなどと警告し適切な時間間隔で面談を繰り返すなどして改善の有無等に関する被告の認識を伝えるなどして、適格性等を見極める取り組みをすべきであった。

そして、被告はこのような取り組みをしていなかったから、「やむを得ない事情」があったとは言えないとしました。

ここでの裁判所の指摘は、試用期間時に労働者に問題を感じた会社が何をすべきかを明示するものとして参考になります。

この他に、裁判所は、 原告の執務場所を、原告しかいない会議室とし、主に簿記の自習や新聞記事の閲読・報告等をさせた被告の対応について、職務能力や適格性を見極めるという目的とは相容れないと指摘しました。

そして、事後の被告役員の発言内容から、原告に対する執務場所や執務内容に係る被告の対応は、原告に精神的苦痛を与えて退職勧奨に応じさせる目的であったと認めざるを得ないとしました。

以上から、1回目の試用期間延長はやむを得ない事情や調査を尽くす目的があったとは認められず無効であり、それを前提とする2回目、3回目の延長も無効であると結論づけました。

普通解雇としての効力について

 試用期間の延長の効力が認められなかったことにより、本採用拒否も認められないことになりますが、裁判所は、普通解雇として有効かという点についてもあわせて検討しています。

業務指示不服従について

労災申請に関する不服従

被告から「労災認定の見込みが薄い」と伝えられても原告が労災申請を行ったことに対し、裁判所は、原告がその意見に従うべき法的根拠がないため、これを解雇事由とすることはできないとしました。

マスク着用に関する不服従

原告が花粉症や喉の痛みへの対策としてマスクを着用していたと弁解しており、これを否定する証拠がないこと、被告がマスク着用の必要性について原告に具体的に聴取したり、医師の見解を確認したりするなどの慎重な対応を怠っていたことから、これを解雇事由に当たると評価することは困難としました。

 服装に関する不備

研修初日に「腰パン」状態(ズボンをずり下げて着用)で出勤した事実は認められるものの、スーツ着用義務のない研修初日の出来事であり、これのみをもって「対応が改まらない」と評価できるほどの事実は認められないとされました。

 先輩社員の指示不服従

太陽光発電の補助金に関する報告を先輩社員から指示された際に「ネットを検索すると該当頁が出てくるのでそこを見てください」「自分で調べた方が早いと思います」と返答したことについて、直属の上司が原告の勤務態度について問題がなかったことを認めており、また、先輩社員の指示が上司の意向に基づく教育目的であることが事前に明示されていたとは認められないから、この点をもって解雇事由に当たるとまで言うのは困難であるとされました。

電話応対の問題

「明るく対応するように」との指導にもかかわらず2週間で改善しなかった点について、声量や音域、滑舌など複数の要素の改善が必要なところ、被告が改善に向けた具体的な指導をしたと認めるに足りる証拠がないため、解雇事由に当たるとまでは困難であると判断されました。

勤務表の修正義務不履行

被告は、被告が労働時間として認められる残業でない限り退社時刻の記録を「午後5時30分」に修正しなければならないという運用に従わなかった点を問題としましたが、裁判所は、この運用自体に、労働者に事実上のサービス残業を強いることになりかねない疑問の余地があると指摘し、原告が午後5時30分以降も実際に労働していたのに虚偽の記録を作成することに納得できなかった可能性も考慮され、この点が解雇事由に当たるとは困難であるとされました。

掃除に関する「雑用」発言

総務部社員から掃除を指示されて「雑用」と発言し指導された事実は認められるものの、指示に従わなかったとまでは評価し難く、解雇事由に当たるとは困難であると判断されました。

  遅刻報告懈怠・遅延証明書提出懈怠

2回の遅刻のうち1回は、台風の影響による交通遅延で事前に連絡をしており、遅延証明書を確認しなくても遅刻がやむを得ないと判断可能な状況でした。そのため、1回の遅刻報告・遅延証明書提出懈怠のみで解雇事由に当たるとまでは評価できないとされました。

知識・理解度不足、学習意欲の欠如、他社員との意思疎通の問題について

簿記テスト結果

被告が原告を精神的苦痛を与えて退職勧奨に応じさせる目的で会議室に一人で執務させ、自習をさせていた状況下でのテスト結果であるため、習得が順調にできなかったことが専ら原告の能力に起因するとまでは困難であるとされました。

  太陽光発電テスト結果

他の新入社員との比較できる成績が不明であるため、原告の知識・理解度不足をもって解雇事由に当たるとまでは評価困難であるとされました。

 生産部組立研修での態度・理解度

研修作業がうまくいかない際に工具を放り投げるなどの態度や、他の参加者と比べて理解度が低い可能性は認められるものの、実質的に社会人経験のない新卒者と同じ立場であることを考慮すると、他の事情と併せて慎重に検討すべきであるとされました。

研修での消極的発言(「やりたくない」「自分の仕事ではない」「出張は嫌だ」など)

学習意欲に不足がある態度と評価することもできるが、原告が実質社会人経験のない新卒者と同じ立場であったことを考慮すると、これのみをもって解雇事由に当たるとは評価できないとされました。

 懇親会での孤立的行動

懇親会で他の社員との会話をせずに一人着席して食事をしていたことや、研修受講態度から他の新入社員が原告とかかわりにくいと感じて孤立的な状況にあったとしても、人見知り傾向のある新入社員は一定程度存在するとうかがえるため、直ちに解雇事由に当たるとは困難であるとされました。

総合判断

裁判所は、解雇事由に当たり得る問題として、集中力の不足や指導担当者の説明を聴きとって理解することの問題、学習意欲に不足がある態度、意思疎通の問題があるとしながらも、原告が実質的に新卒者と同じ立場であったこと、被告が原告の問題に対して適切な指導をせず、むしろ退職勧奨に力を入れて自習を続けさせていたことを総合的に考慮すると、これらの問題も解雇事由に当たるとは評価できないとしました。

そして、解雇事由が存在しないから、本件解雇は無効と結論付けました。

    

   

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