基本情報
1 判決日と裁判所
・令和元年6月12日
・東京地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由の分類
・本採用拒否
・私生活上の非行・犯罪
勤務時間外の行為と解雇
勤務時間外の私的な行為であっても、時には、会社の評判や規律、事業自体に影響を与えるものとして、解雇の理由となる場合があります。
ただし、「会社の評判を低下させる」といっても、抽象的にはどのようにでも言える話ではあるため、具体的にどのようなおそれがあるのかを検討する必要があります。
ここでは、勤務時間外に勤務場所付近において行っていたナンパ又はアンケート活動と称する行為について「風評被害拡大防止」などを理由になされた解雇の効力が争われた事例について見てみます。
事案の概要
本件で解雇の対象となった原告は、そば食堂で出前の配達などの業務に従事していた労働者です。
裁判所の認定によると、原告は、試用期間中に、勤務する店舗付近において、ナンパ又はアンケート活動と称して、小学生、中学生及び高校生を含む面識のない不特定、複数の女性に対し「俺を知っているか」などと声をかける行為を繰り返していました。そのため、付近の学校では生徒に対して注意喚起の文書が配布されるなどしていました。
ある日、出勤前に、原告が同様の行為をしていたところ、警察官による事情聴取を受け、出勤に遅れるという事態になりました。また、出勤に際しては、4名の警察官が同行し、取締役への事情聴取も行われました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を指摘して、本件解雇には客観的合理的理由があり、社会通念上相当であると認められるから、有効であると判断しました。
・原告の行為は、対象となった中学生、高校生及びその保護者を含む近隣住民に対し、強い不安を抱かせるものであったこと。
・会社は、本店所在地で約40年間にわたり本件店舗を営む地域密着型の企業であり、Aは出前担当者として顧客と直接接する立場にあったものであるから、原告が本件行為を繰り返した場合、会社の社会的評価に重大な悪影響を与え、近隣住民が本件店舗の利用を避けるなどの事態に至るおそれがあったこと。
・原告は、出勤日に本件行為に及び、同日の出勤が遅れた上、警察官によるその後の取締役への事情聴取により本件店舗の営業に現に支障を生じさせ、また、会社の社会的評価を低下させる風評被害を招きかねない事態を生じさせたこと。
・にもかかわらず、原告は、取締役から今後本件行為を止めるよう求められた際も、止めるつもりはない旨明言したこと。
このように、行為態様や企業としての特質、労働者の従事する業務の性質等も踏まえた上で、社会的評価への影響及びそれが経営に与える影響を考慮して判断が行われることとなります。