基本情報
1 判決日と裁判所
・平成31年1月31日
・横浜地裁
2 判決結果
・解雇有効
3 解雇の種類と解雇理由
・普通解雇
・成績不良・能力不足
事案の概要
本件は、自動車のブレーキ等の研究・開発・販売等を行う会社で、品質保証部門の責任者を務めていた労働者に対して行われた普通解雇の効力が争われた事案です。
就業規則に定められた解雇事由のうち「業務能力または勤務成績が不適当と認めたとき」「職務に怠慢なとき」に該当する、というのが解雇の理由でした。
解雇に至る過程で、この労働者(原告)は、部下や工場等とのコミュニケーションが十分でない等の課題があるとして、業務改善を目的とするプログラムを3か月間受けることとなりました。さらに、プログラム終了後、退職か本社への転勤かを選ぶように求められ、原告は、本社への転勤を選びました。
しかし、本社への転勤から約半年後に、普通解雇されるに至ったのです。
能力不足と改善指導
「能力不足」や「職務怠慢」という解雇理由は、よく問題となる典型的な解雇理由の一つです。
もっとも能力不足があれば当然に解雇できるという話ではありません。解雇は最後の手段であるという観点から、解雇に至るまでにどのような改善指導がなされたかという点が非常に大きなポイントになってきます。
そこで、本件で裁判所が改善指導に関してどのように認定し、また、判断したのかを中心に見ていきたいと思います。
業務改善プログラムの実施
裁判所の認定によると、業務改善プログラム実施前の原告の総合評価は、解雇の2年前において4段階中下から2番目、1年前において一番下とされていました。
業務改善プログラムの実施にあたっては、「部下との相互コミュニケーションができていない」「工場との業務コミュニケーションができていない」等の課題が示され、原告の同意のもとに3ヶ月間のプログラムが実施されました。
しかし、プログラム終了後、会社はいずれも要求水準に達していないと評価し、原告は、退職か本社への転勤かを選ぶように求められたのです。
本社転勤後の改善指導
これに対して、原告は、本社への転勤を選びました。
本社異動後、原告については、他の同僚と基本的に関わることのない業務で、品質保証に関する基本的な業務をマネージャーのもとで行い、1週間ごとに面談を実施して振り返りと目標を設定する等の方針が立てられました。
そして、原告は、この方針に基づいて、納品した部品に関する1年間の不具合データの分析や、特定の不具合についての課題の洗い出し及び課題解決の実施計画策定等を求められ提出しました。これに対してマネージャーは内容の不十分な点を指摘し、改善点の指導を行いました。
しかし、裁判所の認定によると、原告は、指摘にそった改善を行わずにグラフやデータを追加しただけで再提出するなどし、その後、マネージャー等からの繰り返しの改善指導に対しても、同様に形式的な改訂のみを行う等の行為を繰り返しました。
また、本社異動後、原告は、不具合案件の登録作業を求められましたが、これを拒否し、再度、再々度の依頼に対しても登録すべきルールはない等としてこれを拒否しました。
裁判所の評価・判断
以上のような事実認定に基づき、裁判所は
原告は、自らの考えに固執し、上司や第三者からの再三にわたる指示・指導・指摘の趣旨を理解することなく、これに従わず、時に極めて攻撃的かつ挑発的にそれらの他者を非難するなどの行動を繰り返していた事実が認められ、業務上必要なコミュニケーション能力が欠如していたといえる。
と評価しました。
また、裁判所は、原告が、品質保証部門のトップとして、入社当初から部下3名を抱えるという高い地位で、基本給も月額54万円であったという点について言及して、
原告が部下の管理等を行うことも含めた高い能力を見込んで採用されたものといえること
を指摘しています。
そして
原告に対しては業務改善プログラムが実施され、その後も、1週間に1回の頻度で上司からの面談及び指導を受けるなど、手厚く上司からの指示・指導を受けたにもかかわらず、業務上必要なコミュニケーション能力に何ら改善が見られなかった
と評価とした上で、これらに照らせば「業務能力または勤務成績が不適当」という解雇事由に該当するとしました。
結論として、本件解雇は有効としたのです。
上の裁判所の判断からも分かるように、求められる能力の内容を考えるにあたっては採用経緯や待遇等も関わってきます。また、改善指導のあり方は、業務内容や問題点、会社の規模等によっても当然変わってくるものではありますが、そのあり方を考える上で一つの参考となる事例です。