基本情報
判決日 | 令和2年11月24日 |
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裁判所 | 東京地裁 |
判決結果 | 解雇無効 |
解雇の種類 | 普通解雇/整理解雇 |
解雇理由 | 経営上の必要性による解雇/セクハラ・パワハラ |
事案の概要
原告は、血液製剤の開発を目指す株式会社である被告と、期間の定めのない労働契約を締結し、被告の京都開発センター長として就労していました。原告の業務内容は、研究業務の推進や京都研究拠点の組織マネジメントのほか、ラボ管理・機器管理などの総務的業務も含まれていました。
ところが、原告の採用から半年も経たない時期に、被告は原告に対し、京都開発センターの廃止を理由に、会社都合で退職するよう勧奨しました。
その後の裁判において、被告は、主位的には原告が退職に合意したと主張し、仮に合意が成立していないとしても、次の理由に基づき原告を普通解雇したと主張しました。
1. 京都開発センターの廃止。
2. 他の従業員に対するハラスメント
これに対し原告は、退職合意は成立しておらず、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き無効であると主張しました。
裁判所の判断
退職合意の成否について
被告は、退職勧奨時の面談で、取締役が4月末までの在籍を許容すると述べた際、原告が「分かりました。」と回答したことから、退職に合意したのは明らかであると主張しました。
また、合意の成立を裏付ける事実として、原告がその後、京都の職場を離れて東京に戻り転職活動を開始したことや、被告が関係者宛に送信した原告の退職告知メールに異論を述べなかったことなども主張していました。
しかし、裁判所は、仮に「分かりました」という発言があったとしても、「退職は労働者の生活基盤を失わせる重大な意思表示であることに照らすと、それが確定的なものとしてされたのかは慎重に評価すべきである」とした上で、次の点を指摘して、この発言をもって退職の合意があったとは言えないとしました。
・前後の文脈に照らすと、原告の発言は、被告が5月1日以降の在籍を認めない意思であることを理解したという意味に解することができること。
・原告が退職勧奨直後から、退職合意書への署名や押印を求められながら、一度もこれに応じなかったこと。
また、被告が、退職合意の裏付けとして主張した事実についても、「 原告が速やかに転職活動に着手したことだけでは、原告が確定的に退職に同意していたことを推認するには足りない」などとして、これが合意の裏付けとなることを否定しました。
解雇の効力について
京都開発センターの廃止について
被告は、京都開発センターの廃止によって、センター長としてなすべきマネージメント業務は消滅したと主張しました。
しかし、裁判所は、次の点を指摘して、これを理由とする解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当とは認められないと判断しました。
・組織変更後も、京都オフィスとラボはそのまま残っており、原告が担当していた研究業務の推進や組織マネジメント業務などは残存していると推認されること。
・被告の主張は、要するに、従来センター長に担当させていた業務を各部門の部長らに分掌させるというものであり、そうすると、被告は、開発センターのマネジメント業務等を業務内容として原告を採用してから半年も経たないうちに、被告側の理由により一方的に原告から業務を取り上げ、解雇したものといわざるを得ないこと。
・被告は、このような措置を採らなければならない合理的必要性を具体的に主張・立証しておらず、解雇を回避するための措置を検討した様子もうかがわれないこと。
・センター長として採用しておきながら、半年も経過しないうちにセンターの廃止を理由とする退職勧奨をし、これに応じないとして解雇することは、明らかに信義に反すること
ハラスメント(パワハラ・セクハラ)について
被告は、原告が従業員Cに対し、同人が女性であることを理由にお茶出しを命ずるセクシャルハラスメントを行ったと主張していました。
しかし、裁判所は、「女性であることを理由に業務を命じたと認めるに足りる証拠はない」としました。
また、被告は、原告が、従業員Dに対して「何をしているのか分からない」などと述べるパワーハラスメントを行ったとも主張していました。
しかし、裁判所は、これを裏付ける証拠はないし、仮にこれに類した発言があったとしても、「前後の文脈は不明でパワーハラスメントと評価できるような発言があったとは言えない」としました。
結論
以上により、裁判所は、本件解雇を無効と結論づけました。
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