映像コンテンツ制作会社のADに対する仮払金未精算及び出勤停止解除後の欠勤等を理由とする懲戒解雇が無効と判断された事例

基本情報

1 判決日と裁判所
 ・令和2年9月25日
 ・東京地裁

2 判決結果
 ・解雇無効

3 解雇の種類と解雇理由の分類
 ・懲戒解雇
 ・欠勤・遅刻・早退/着服横領/情報漏洩

事案の概要

被告はテレビ番組やWEBコンテンツなどの映像コンテンツの企画・制作・著作権管理等を行う株式会社です。原告は、被告の従業員としてアシスタント・ディレクターの業務に従事していました。

あるとき、原告は、被告代表者から「死ね」といった暴言を受けたことがきっかけで、職務から離脱し、連絡がとれない状態となりました。

これに対し、被告は、職務怠慢、無断欠勤、横領があったとして、懲戒処分として同日以降の社屋への立入りを禁止しました(本件出勤停止処分)。

原告が、依頼した弁護士を通じて、出勤停止処分の効力を争う通知を行ったところ、被告は、この処分を解除するとともに、原告に対して、ハードディスクや出演者承諾書の返還及び仮払金の精算、出勤を求めました。

これに原告が応じなかったところ、被告は、原告を懲戒解雇処分としました。

被告は、懲戒解雇の理由として、虚偽告訴、ハードディスクや出演者承諾書の持ち出し・隠匿、仮払金23万円の横領、出勤停止解除後の長期間の欠勤、機密情報のパソコンへの保管などを主張しました。

これに対して、原告は、被告代表者による日常的な暴行や暴言があったため出勤できなくなったこと、仮払金は被告代表者とともに乗車してきた自動車内に置いてきたため横領ではない等と主張し、懲戒解雇の効力を争いました。

裁判所の判断

裁判所は、まず本件出勤停止処分の有効性について、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であるとも認め難いから、無効であるとしました。

その上で、本件懲戒解雇の有効性について次のように判断しました。

虚偽告訴

原告が、被告代表者による暴行(顔面を殴打する等)により傷害を負った事実を認定した上で、虚偽告訴にはあたらないとしました。

ハードディスク等の持ち出し

 日頃から行われていた行為であり、被告代表者がとがめた形跡もないことから、無断でなされた非違行為にはあたらないとしました。

機密情報のパソコンへの保存

被告代表者はその使用を容認していたとみるのが相当であり、私的使用や開示・漏洩の事実もないとして、非違行為にはあたらないとしました。

仮払金の未精算/出勤停止処分解除後の長期間の欠勤

これに対して、仮払金の未精算については、裁判所は、所定の手続きがなされておらず、就業規則所定の非違行為に該当するとしました。

また、出勤停止処分解除後の長期間の欠勤についても、労務提供義務の履行が可能な状況であったにもかかわらず応じなかったものとして、就業規則所定の非違行為に該当するとしました。

もっとも、裁判所は、以下の点を指摘し、これらの事由を理由に普通解雇はともかく懲戒解雇にまで及ぶことは社会的相当性を欠くとしました。

• 原告が欠勤し、仮払金が未精算のままとなったのは、被告代表者から暴行を受けることがあったほか、多額の債務を負担させられ、支払いを求められたことに起因するとみられること。

• 原告に特段の懲罰歴も認められないこと

以上により、裁判所は本件懲戒解雇を無効と結論づけました。

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