勤務態度又は勤務成績が不良であることを理由とする試用期間中の解雇が無効とされた例

新しい職場で働き始めるときに、能力や適正をみるための期間として「試用期間」が設けられることが多くあります。

試用期間の結果、能力や適正がないとして本採用拒否するのも一種の解雇ですので、会社が自由に決められるというわけではありません。

試用期間中の解雇は許されるか

2012.03.18

実際に能力不足を理由として行われた本採用拒否(解雇)の効力が問題となった一例(大阪地方裁判所令和元年11月8日判決)を見てみます。

事案の概要

この事案では、労働保険事務組合業務等を行う事業協同組合に事務職員として雇用された労働者に対して、勤務開始後2か月弱で行われた解雇の効力が問題となりました。

そもそも試用期間の定めがあったかという点から争いがありましたが、裁判所は試用期間の定めはあったと認定しましたので、試用期間中の解雇として許されるかどうかが大きな争点となりました。

解雇理由として挙げられたのは、「勤務態度又は勤務成績が不良であること」です。

具体的には

  • ・一般社会常識を欠く
  • ・仕事をしていく上で通常必要となる思考ができない
  • ・採用時に虚偽の事実を述べ、自ら説明していた知識や技能を有していない
  • ・業務に必要な専門知識を欠く
  • ・ミスが余りにも多く、改善しようとする姿勢がみられない
  • ・指示や指導内容を適切に把握せず、平然とする
  • ・向上の意欲がなく、知らなかったことを覚えようともしないし、そのような態度を平然と示す
  • ・必要な業務の習得ができなかった
  • ・その業務を習得できない様子から、原告に従事させる予定であった業務の中に担当させられないものが生じた
  • ・採用面接において虚偽を述べていたことが判明し、あるいは、ミスの多さ、改善意欲のなさ、コミュニケーション上の問題等から、同僚職員との間に信頼関係を築くとともに、既に悪化している信頼関係を改善することはできない

といった主張がされました。

こう並べていくと「解雇やむなし」という気になってくると思いますが、注意して頂きたいのはこれは使用者からの評価(主張)で、問題は、こうした評価を基礎づける事実があるかどうかです

裁判所の判断

就労開始後の原告の言動について

裁判所は、解雇理由を基礎づける事実として被告が主張する「原告の就労開始後の言動」について、「時期や経緯が不明確なもの」「事実的側面と評価的側面が混在しているものが含まれる」といった問題点があることを指摘しながら、被告が主張するいくつかの事実(例えば、原告において、暦上で各月が何日で構成されているかを知らず、そのような態度を示したこと)があったとは認められないとしました。

この「事実的側面と評価的側面との混在」という問題は、会社が解雇理由を示す際によく見られますが、裁判では、評価の前提となる具体的な事実こそが問題となり、その事実が証拠によって認められるかが重要となるのです。

様々な事実に対する評価

その上で、裁判所は、認定した事実について、概ね次のように評価しました。

原告が来客に対して汚れた湯飲み茶碗を供用したこと/タオルの絞り方が不十分で床に水分が垂れ落ちたこと

→認定できるその程度は、軽微なものにとどまるか、あるいは、不明であるといわざるを得ないから、「従業員として不適格であると認められるとき」に該当するとは言いがたい。湯飲み茶碗の共用が、来客に対するものであることを最大限考慮したとしても、解雇の客観的な合理的理由や社会通念上の相当性は認められない。

始業時間に遅刻したときに公共交通機関の遅延証明書を持参しなかったこと

→各職場内部での取決めの問題であり、これらの取決めが原告に対して事前にどのように告知されていたか、さらには、被告内部におけるこれらの取決めの重要性ないし遵守すべき程度等は明らかではなく、これによって、社会人としての著しい能力不足等が直ちに裏付けられるものではない。

事業所台帳の記載を1行分見誤り、内容に誤りがある書面を作成した上、公共職業安定所にこれを提出したこと

→誤りを前提として対外的な手続がされたという意味において必ずしも軽視はできない性質もので、かつ、原告自身の問題として事務処理に慎重を欠く姿勢が見受けられる。

しかし、求人票上に表示された業務内容や、被告の業務体制及び原告の配置、原告の給与額を考慮すると、原告の担当業務内容は,社労士資格を有する職員の補助である。そうすると、書面の提出前に社労士資格を有する職員による点検や最終確認があって然るべきとみる余地があるから、その誤りを全面的に原告のみに帰責すべきではない。

さらに、原告に対する具体的な指導態勢や、原告による同種事務の担当ないし関与がどの程度反復継続されていたものであるか等は明らかとはいい難いこと、被告での就労開始以降の経過期間が約1か月であることを考慮すると、上記業務遂行上の誤りは、「従業員として不適格であると認められるとき」を基礎付け得る事実の1つであることは否定できないが、これをもって「従業員として不適格である」と認めるには足らず、解雇の客観的な合理的理由ないし社会通念上の相当性があると認めることはできない。

解雇は無効

その他の面も含め、裁判所は

      ・そもそも被告主張に係る解雇理由を基礎付ける事実の多くが認定できない
      ・認定できる事実を個別にみても、その程度が軽微であるなどして、必ずしも「従業員として不適格であると認められるとき」に該当するとは認められない。
      ・さらには,留保解約権の行使につき,その趣旨目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し,社会通念上相当として是認され得るものとも認められない。

として、本件解雇は無効と結論づけました。

能力不足や勤務態度・成績不良は解雇理由になるか

2012.06.04

試用期間中の解雇は許されるか

2012.03.18

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