再就職禁止の合意と誓約書の意味

誓約書と競業避止・秘密保持の合意

在職中に署名押印した競業避止や秘密保持の誓約書に基づいて、後日会社から何か請求された場合に、「よく見ていなかった」「知らなかった」という主張をしてもなかなか通るものではありません。

その書類に明確に競業避止や秘密保持の義務が記載されている以上、いくら「よく分からなかった」と主張しても、競業避止の合意や秘密保持の合意が成立したものとされてしまいます。

したがって、こうした誓約書に署名する際には、そのリスクを良く考えた上で対応を考える必要があります。この点について詳しくは,次の記事をご覧ください。
退職後の競業避止義務~誓約書は拒否できるか
秘密保持誓約書への署名を求められた時に知っておきたいこと

もっとも、裁判例の中には、誓約書が作成された経緯や文言等に着目して、合意の成立について慎重に判断しているものもあります。実際に、誓約書に基づいて何かを請求をされている場合には、役立つかと思いますので紹介します。

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再就職禁止の合意が成立したか

とりあげるのは、特許事務所が、退職後に他の特許事務所に就職した元従業員らに対して、退職後に一定範囲の他の特許事務所等への再就職を禁止する合意があったと主張して、就職禁止を求める仮処分の申立てを行ったという事案(平成18年10月5日大阪高裁決定)です。

元従業員らは、雇用契約書の作成にあたって、退職後2年間「本件事務所の顧客にとって,競合関係を構成する特許事務所等」への再就職を禁ずる旨の条項が記載された誓約書に署名押印をしていました。

第一審の大阪地裁では、再就職禁止の合意が成立したことを前提に、このような合意は公序良俗に反するとして申し立てを認めなかったのですが、第二審の大阪高裁では、そもそも、誓約書の文言どおりに再就職の禁止の合意が成立したこと自体に疑問があるとして、やはり申し立てを認めなかったのです。

まず、裁判所は「元従業員らは、本件誓約書に署名押印して提出したものであるから、そこに記載されている就職禁止条項について承諾したとするのが自然であるかのように思える」と言いながらも、

  1. 本件誓約書は、雇用契約締結時に、使用者の要求に基づいて職業選択の自由を制限されることを承諾するものである
  2. (よって、元従業員らが署名押印したからといって)直ちに記載されている文言どおりに、職業選択の自由を制限する合意が成立したと認められるかについては慎重に検討する必要がある

と指摘し、具体的には

  1. 労働者の職業選択の自由を制限することによって守られる利益の保護のために、本件就職禁止条項が提案されたか否か
  2. 労働者らが、本件就職禁止条項が記載された本件誓約書を作成した経緯

について検討した上で、本件就職禁止条項の合意が成立したといえるかを判断すべきとしました。

そして本件では、

  1. 誓約書の記載事項の大半は、本件事務所にとって保護するべき必要性がある情報の守秘義務とその実効性確保に関する事項の約束であって、誓約書を提出させる目的も主にこの点にあったと思われること
  2. 元従業員らもそのような文書であると受け止めていたこと
  3. 採用に関する手続の一環として事務的に本件誓約書の作成・提出が行われたこと
  4. 宛先が就業先と異なる誓約書の作成提出を求められた者があること
  5. 元従業員らは、退職時に就職禁止条項の遵守について注意を喚起されたことは格別なかったこと
  6. 仮処分申立ては、賃金をめぐる紛争が発生した後にされたこと

などの事情がからすると、当事者双方は、本件誓約書を、従業員としての注意喚起をする趣旨の文書であると見ていた可能性が高いとしました。

そして、就職禁止条項の内容が不明確であることも指摘した上で、本件就職禁止条項が、その文言どおり、相手方らの職業選択の自由を制限する内容の約束として、当事者間で合意されたものと認めるには疑問があると結論づけました。

誓約書作成の実態をよく見た判断ですが、常にこうした慎重な判断がされるとは限りませんので、誓約書に署名押印するときにはやはり慎重な検討を行うことをお勧めします。

なお、秘密保持や競業避止の合意が成立したとしても、その内容通りの効力が認められるかについては、また別の問題です。この点については以下の記事を参考にしてください。

退職後にも秘密保持義務を負うか

退職後にも秘密保持義務を負うか

退職後の競業避止義務~誓約書は拒否できるか

退職後の競業避止義務~誓約書は拒否できるか?

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