給料の一方的減額と労働者の同意~「わかった」とは言ったけれど・・・

給料の一方的減額

会社から一方的に給料を下げると言われたというご相談を受けることがあります。

労働条件(賃金も当然その一つです)については、使用者が一方的に(労働者の同意のないまま)変更することは許されないのが原則です。(就業規則の変更による場合についてはこちら→就業規則による労働条件の変更の効力~役職定年制の導入

したがって、給料引き下げに納得がいかないという時にはきっぱりとNOということが大切です。

もっとも、会社から一方的に給料を下げると言われた時に、それに対して労働者の側がなかなか明確にNOと言えないという場合もあるでしょう。後になって「やっぱり納得がいかない」と思って声を挙げた時に、会社から「あのとき同意したはずでしょう」と言われてしまうという事態が起こります。こうして「労働者が給料の引き下げに同意したのかどうか」を巡っての争いが生じてきます。そんな時に参考になる裁判例として、平成24年10月19日札幌高裁判決を見てみたいと思います。

同意したと言えるのか

この事案は、ホテルで料理人等として働いていた労働者(以下では仮にAさんとします)が未払賃金の支払いを求めて提訴したケースです。会社が賃金減額の合意があったと主張したため、Aさんが減額に合意したのかどうかという点が問題となりました。

裁判所の認定によると、この会社は中途採用者が多く、給与が前職での給与額を基に決められていたことから、人によって給与のばらつきがありました。

そのため、「給与の不公平なばらつきの解消を図り、合理的な給与体系にする」という目的で会社は、Aさんに対して、給与を年額で124万円減額する(!)という提案をしました(ただし、新たな給与の内訳である基本給と職務手当の金額や、それらの賃金がどういう性質のものとして支払われるのかといった点については具体的な説明がなされませんでした)。
 
これに対してAさんは、減額について納得していなかったものの、そうかといって、新しい職場で働き始めた時期(入社から約2ヶ月後のことでした)に賃金のことで事を荒立てる気にもなれなかったことから、提案を拒絶するとの態度も明確にはせず「ああ分かりました」などと応答してその場を辞したのです。

このやりとりをもって、減額に同意したと言えるのか、ということが問題となりました。

裁判所の判断

裁判所は、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、「事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要がある」とした上で

①Aさんの応答は、入社後わずか2ヶ月後に年額124万円あまりの減額という重大な提案を受けた際のものであること

②Aさんの立場からすれば、入社早々で、しかも試用期間中の身でもあり、提案を拒否する態度を明確にして会社の不評を買いたくないという心理が働く一方で、これほどの賃金減額を直ちに受け入れる心境になれるはずのないことは見易い道理であって、

③会社からの提示額の曖昧さと相まって、「ああ、分かりました」という抽象的な言い回しであったことも考え併せれば、この応答は、「会社からの説明は分かった」という程度の趣旨に解するのが相当である。

として、Aさんが賃金減額に同意したと認めることはできないと結論づけています。

なお、Aさんは、11ヶ月間、減額した賃金のみの支払いを受け、これに対して明確な抗議をしていませんでしたが、この点についても、裁判所は

賃金減額に不服がある労働者が減額前の賃金を取得するには、職場での軋轢も覚悟した上で、労働組合があれば労働組合に相談し、それがなければ労働基準監督官や弁護士に相談し、最終的には裁判手続きをとることが必要になってくるが、そこまでするくらいなら賃金減額に文句を言わないで済ませるという対応も往々にしてあり得ることであって、そうであれば、抗議もしないで減額後の賃金を受け取っていたことから、事前に減額の同意があったと推認することもできない

としています。

働く人の心理状況等もよく理解した全くの正論だと思いますが、覚えておいて頂きたいのは不用意なやりとり一つでこんな争いが起こってしまうということです。
 
この事案では、口頭でのやりとりについて同意があったとは認められませんでしたが、その1年後に減額された賃金が記載された労働条件確認書にAさんが署名押印した時点では合意の成立が認められています。
 
口頭でのやりとりだけではなく書面に署名押印する際には、あとで「詳細を見ていなかった」「よく理解していなかった」「署名せざるを得なかった」などと主張してもそう簡単に通用するものではありませんので、一層注意が必要です。

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