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営業秘密となる顧客情報とは?




不正競争防止法における「営業秘密」と認められるためには、秘密として管理されている必要があること(秘密管理性)、そして、そのハードルはなかなか高いことについては不正競争防止法における営業秘密とは何かで触れました。

ここでは、秘密管理性が否定された例や肯定された例について、さらに見てみたいと思います。

秘密管理性が否定された例①

まずは平成23年9月29日東京地裁判決です。

この事案では、健康器具を販売する会社で取締役兼営業担当部長であった者が、退社後に入社した競業会社に対して顧客名簿を開示した行為等が問題とされ、この顧客名簿に記載された顧客情報が、営業秘密にあたるのかが争われました。

裁判所は、

ある情報が秘密として管理されているというためには、当該情報に接し得る者が制限され、当該情報に接した者に当該情報が秘密であると認識し得るようにしていることが必要である

とした上で、

  1. 顧客情報の閲覧や印刷に原告代表者の事前の承認や許可を得るという秘密管理規定で定められた手続が、実際には遵守されていなかったこと
  2. パスワードの設定等による物理的な障害も設けられていなかったため,権限のない原告従業員でも自由に閲覧したり印刷したりすることができたこと

を指摘して、会社は、顧客名簿に記載された顧客情報に接し得る者を制限し、この情報に接した者に同情報が秘密であると認識し得るようにしていたとはいえないから、本件各名簿に記載された顧客情報は、秘密として管理されていたとはいえないと結論づけました。

この判決でも重視されていますが、形式上のルールでは閲覧等が制約されていても、実際にはそれが守られておらず、物理的にもそれが制約されていないという場合は、秘密として管理されていたとはいえないことになります。

秘密管理性が否定された例②

もう一つ、同じく顧客情報が問題となったケースで、顧客情報の特質性にも着目して営業秘密性を否定した例(大阪地方裁判所平成22年10月21日)を見てみたいと思います。

この事案は、主に投資用マンションの販売を行っている不動産会社が、元従業員らが退職後に競合する不動産会社に顧客情報を開示した等として、損害賠償や顧客情報の使用の差し止め等を求めたケースです。

裁判所は、まず「営業秘密」として保護されるために秘密管理性が必要とされている理由について説明した上で、とりわけ本件で問題とされた顧客情報について

  1. 従業員が日々の営業活動において取得して会社に提供することにより会社が保有し蓄積する顧客情報となるものも含まれていること
  2. 顧客情報を利用した営業活動においては、従業員が特定の顧客との関係で個人的な親交を深め、その関係が会社を離れた個人的な交際関係も同然となる場合も生じ得ること

を指摘して、

そのような情報を含む顧客情報をもって、退職後に使用が許されなくなる事業者の「営業秘密」であると従業員に認識させ、退職従業員にその自由な使用を禁ずるためには、日々の営業の場面で,上記顧客情報が「営業秘密」であると従業員らにとって明確に認識できるような形で管理されてきていなければならず、その点は、実態に即してより慎重に検討される必要がある

と述べました。

その上で本件では

  1. 顧客情報ファイルの引き継ぎに際して、特別な注意が与えられるとか、管理に関する特別な指示がされるなどの特別の手当がされていなかったこと
  2. 従業員の秘密保持の誓約書の提出も徹底されていたとはいえないこと
  3. そうすると、会社は秘密保持義務が不徹底のまま契約者台帳ファイルの管理を個々の営業部従業員に任せていたというべきであること
  4. 営業部従業員は、必要に応じて契約者台帳のコピーをとって社外に持ち出すなどしており、契約者台帳ファイルの管理は会社の手もとを離れてしまっていたと言わざるを得ないこと

等を指摘して、結論的に本件で問題とされた顧客情報については秘密として管理されていたとは言えず、営業秘密に当たらないと結論づけました。

確かに、業界によっては、顧客と営業社員との関係は会社を離れた個人的な関係に発展し継続していくことはままあり、退職後の秘密保持や競業行為が問題となる場面では、こうした観点も十分に考慮される必要があります。

秘密管理性が認められた例

最後に、秘密管理性が認められた例(平成26年4月17日東京地裁判決)も見てみます。

この事案は、モデルやタレントのマネジメントをする会社で働いてた従業員が、退職後、同業の会社を立ち上げたのに対して、営業秘密である登録モデルの個人情報を使用したとして、元の会社から損害賠償請求がされたケースです。

登録モデルの個人情報が不正競争防止法における「営業秘密」に当たるのかという点に関連して、当該情報が秘密として管理されていたかが問題となりましたが、裁判所は以下のような点を指摘して、これを肯定しました。

  1. 登録モデル情報は、外部のアクセスから保護された原告の社内共有サーバー内のデータベースとして管理され、その入力は、原則として、システム管理を担当する従業員1名に限定し、これへのアクセスは、マネージャー業務を担当する従業員9名に限定して,その際にはオートログアウト機能のあるログイン操作を必要としていたこと
  2. 登録モデル情報を印刷した場合でも,利用が終わり次第シュレッダーにより裁断していること
  3. 会社は就業規則で秘密保持義務を規定しており、モデルやタレントのマネジメント及び管理等という業務内容に照らせば、登録モデル情報について,上記のような取扱いにより、従業員に登録モデル情報が秘密であると容易に認識することができるようにしていたといえること
  4. 元従業員らは、他の従業員も登録モデル情報を入力することがあったことなども主張しましたが、裁判所は、この点についても、「他の従業員が登録モデル情報の入力をしたことがあるとしても、これが恒常的に行われていたと認めることはできない」として、これによって秘密管理性が否定されることはないとしています。

    最初にとりあげた秘密管理性をした裁判例①では、秘密管理規定で定められた手続が実際には遵守されていなかったことや、パスワードの設定等が行われていなかったことと対比して頂ければと思います。

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