試用期間途中に適正欠如を理由にされた解雇を無効と判断した裁判例

試用期間途中での解雇

試用期間途中に、適性欠如を理由になされた解雇が、解雇すべき時期の選択を誤ったものとして無効とされた裁判例として、東京地裁平成21年10月15日判決を紹介します。

これは、病院の総合事務職として採用された原告が、3カ月間の試用期間とされていたところ、「事務能力の欠如により常勤事務としての適正に欠ける」という理由で残り20日間を残して解雇(本採用拒否)をされたという事案です。

この病院の就業規則では

「試用期間は原則として1カ月、特別の事情がある場合は3カ月とすることができる」

とされていましたが、原告は、パソコンに関する実務経験がなかったことから、3カ月の試用期間とされ、1カ月に1回の面接を受けることになったという事情がありました。

適格性欠如を示す具体例として主張された内容

裁判の中で、原告の適格性の欠如を示す例として会社から主張され認定された原告の事務処理上の不手際やミスをみてみると、
例えば、

・健康診断問診票の記載内容を所見データに入力するにあたって、自覚症状に○がついていないものを○と入力したり、○がついているのに入力しなかった

・受診者の住所入力の際に、丁目・番地・号を入力したあとにエンターキーで確定登録しなかったために、検査結果の通知が返戻されてしまったものが4通あった

・聴力検査の際にヘッドホンを左右逆に装着し計測した

・院外からの電話での問い合わせに対して、企業名や氏名等を聞き間違えたり、相手先の住所や電話番号を聞き忘れるなどして、相手先から苦情が寄せられることがあった、

などが挙げられています。

裁判所の指摘

裁判所は、これらの原告の不手際について、「基本的な事項に関するミス」「入力データ画面の入力欄の記載を注意して見さえすれば間違わないようなミス」「社会人としての一般常識に属することが出来ないことを示す事実」などと厳しく評価した上で

「原告の不手際は、いずれも正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、原告の本件病院における業務遂行能力ないし適格性の判断において相応のマイナス評価を受けるものである」

と指摘しています。

しかし、他方で、裁判所は、

① 1回目の面接において、原告は不手際の点について厳しく指摘され、一定の注意を払うようになったために少なくとも入力についてのミスが指摘されることはなくなり、業務態度等に相当程度の改善がみられたこと

② 2回目の面接において、原告は、いまだ常勤事務職員として求められる水準に達していないことを指摘され、いったんは退職の意向を示したものの、その後の面談の結果、退職せずに引き続き試用期間中は勤務し、その間の勤務状況から、被告が要求する常勤事務職員の水準に達するかどうかを見極めることになったこと、

③ にも関わらず、直属の上司から原告の勤務態度、勤務成績、勤務状況、執務の改善状況、今後の改善見込み等を直接聴取することもなく解雇がなされたこと

などを指摘し、勤務状況等は改善傾向にあり、原告努力如何によっては、残りの試用期間を勤務することによって求められている常勤事務職員の水準に達する可能性もあったなどとしました。

その上で、試用期間満了まで20日間を残した時点において、常勤事務としての適性に欠けると判断して解雇をしたことは、解雇すべき時期の選択を誤ったものであるとして、解雇を無効と結論づけました。

改善可能性

裁判所が指摘しているように、原告の不手際として取り上げられているミスの具体例は、相当基本的かつ場合によっては重大な結果を招くミスで、原告の適性について相当疑義を抱かせるような内容です。

しかし、それでも解雇が無効とされているのは、やはり、実際に試用期間の過程を通じて原告に改善の傾向が一定見られ、被告側も、途中までは原告を退職させることは全く考えていなかったという事情です。

事実関係を見る限り、途中から原告がパワハラの訴えをするようになったことから被告側が性急に解雇に踏み切ったということのようですが(なお、パワハラについても裁判上争われましたが請求は棄却されています)、試用期間途中における適性判断のあり方について参考になる裁判例です。

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試用期間終了前の解雇~適格性がないことを理由とする解雇~

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